セリフの覚え方一つから真っ白な気持ちに

「人一人を救うという狭い範囲の話ではなく、死者の数が何千、何万人と拡大していくギリギリのところで、より多くの命を救うために私的感情を一切シャットアウトし、決断を下していかなければならない。周囲からは冷酷な女性だと思われますし、現に仲間が『医者を辞める』と現場を離れていく場面もあります。でも、(本人は)投げ出したくても投げ出せない。いろんな複雑なこと、大きなことを背負って、必死で戦っている女性なんだ、ということを凄く感じました」

ご自身も仕事で泣きたくなることはあるのでは? と問いかけると、再びじっと熟考しつつ、

「……うーん……難しいなあ……」

とこちらを凝視した。檀さんについて半端なイメージを描いていた聞き手の安直さは、見事に見抜かれていた。

「慣れちゃうのが嫌なんです。台本をもらっても、毎回『どうやってこの役をつくっていけばいいんだろう』と悩みます。そして、セリフの覚え方一つからまっ白な気持ちに返って臨むんです」

わあ、できるかなあ……と思いつつ、でもやりたい、やるんだ、大丈夫、できるという気持ちがすべてを上回るのだという。

『感染列島』の映写室で。見慣れぬ設備に興味津々。<br>
※『感染列島』は全国東宝系にて公開中。出演:妻夫木聡、檀れい、国仲涼子、藤竜也ほか

『感染列島』の映写室で。見慣れぬ設備に興味津々。 ※『感染列島』は全国東宝系にて公開中。出演:妻夫木聡、檀れい、国仲涼子、藤竜也ほか

「映像ってこういうものなんだ、こんな撮り方をするんだ、と少しずつわかってきて、『武士の一分』のときとはまた違う部分が自分に出てきてはいるんですけれども、10本やっても、20本やっても、30本やっても、いい意味で『慣れたくはないなあ』と思っています。いつも新鮮な気持ちで初心を忘れず、一つ一つに向かい合っていたいから」

檀さんはきっぱりと断じた。仕事を請けるごとにまったく白紙の状態から始める、という姿勢は、常に不安が絶えないし、傍目にはこの上なく不器用に映ってしまう。

しかし、そうやって一歩一歩、愚直に前へ進むことなしには到達しえない場所があることもまた、紛れもない事実であろう。

「今は一つ一つの体験が楽しい」と言いつつ、取材に対してもゆったりと丁寧で、かつ決して手を抜かない檀さん。今後も着実にそのキャリアを積み上げていくに違いない。

(初沢亜利=撮影 衣装協力/VALENTINO JACK OF ALL TRADES  スタイリスト/Die-co★)