そこでゆとり世代育成の方法として有効なものが、報告、連絡、相談という「ホウレンソウ」を活用した定期的なコミュニケーションである。そのメリットについて前出の池谷部長は、「上司の側に育成するためのリズムがつく。ゆとり世代の新入社員の側には、自分の成長をバックアップしてくれているという上司への信頼感が醸成される」と話す。

上司一人でゆとり社員の育成を背負い込むのではなく、複数の人間でチームを組んで育てていくことも大切だ。仕事に慣れた先輩社員を「メンター」に任命し、「最近、仕事の調子はどう」「何かトラブルを抱えていることはない?」と気軽に声をかけるようにする。そこで、ゆとり社員の声を聞いてあげるだけで安心し、モチベーションがアップしてくる。

また、効率性重視で育ってきたゆとり世代に企画書をつくらせると、インターネットで情報やデータを集め、コピー・アンド・ペーストで見栄えのいいものをすぐにつくってくる。しかし、内容について突っ込んだ質問をすると、深く考えたものではないので、しどろもどろの答えしか返ってこない。そこで樋口社長は自社の社員にもA4用紙1枚に企画書をまとめさせている。何を盛り込むのか熟考しなくては完成せず、何よりもまず自分で考えるトレーニングになるからだ。

もちろん、ゆとり世代にだって長所はある。「ゆとり世代はとにかく素直だ。一度納得しさえすれば、黙っていても自分から仕事に取り組むようになる」と関係者は口を揃えていう。彼らを納得させるためには、まず一つひとつの仕事の意味を問い直す必要がある。それを行うことは、とりもなおさず上司や先輩社員自身の仕事を見つめ直す好機になる。そして、目標達成に向けた全員のベクトルが合致したとき、組織全体がパワーアップしていることに気づくはずだ。

(宇佐見利明=撮影)