政府は妊婦を雇用している事業主に対しても十分な手当てを

要望書でも指摘されているように、「まずはじめに妊婦側から就業制限や休業を求めるアクションを起こさなければならない」ということと「労使間での話し合いに任されている」ということが、現場で働く妊婦が苦悩している最も大きな原因なのだ。この障壁を取り除かないことには、問題は解決しない。

労使間のパワーバランスは、ただでさえ使用者側が圧倒的に優位だ。アンケートでも多くの声で示されたように、そもそも「言い出しにくい」「言ってもムダ」という力関係が厳然としてある状況で、激務をこなしつつ、自らアクションを起こし、事業主と話し合い、交渉するのに要するエネルギーはいかばかりか、とても計り知れない。

もちろん良心的な事業主もいるであろうし、補償したくとも経営上の問題から難しいとの場合もあろう。労働者からの要望に応えたくても応えられないというケースは、特に「自粛要請」で多くの企業が減収になっている現状では、むしろ少なくないはずだ。

となれば、やはり政府が主導して、働く妊婦個人にだけではなく、妊婦を雇用している事業主に対しても十分な手当てを行き届かせることが重要となる。

現政府は“ひとに優しい政府”だろうか

事業主には、妊婦をウイルス感染の危険にさらさないことが事業主に課せられた安全配慮義務であることをしっかりと認識させた上で、妊婦からの申し出がなくとも配置転換、在宅勤務あるいは休業のいずれかを選択させることを義務化すること、それによる収入減が生じた場合の全額補償を義務化すること、そしてその補償に要した費用については、政府が責任を持って事業主に補填することといった、より実効性のある施策を強力に打つべきだ。

政府も少子化対策が重要だと本気で考えているのであれば、すべての妊婦が真に安心して安全に子どもを産み育てられる環境を、実効性のある施策を講じて整備するのが当然だろう。それには、妊婦が働く職場の事業主が、安心して事業継続できる体制を整えられるよう策を講ずる必要がある。そしてその職場が、働く妊婦を守る“ひとに優しい”職場であるならば、そこで働く他のすべての人も安心・安全のもと仕事ができるようになるに違いない。

反対に、妊娠中の労働者さえ大切にできない冷たい職場は、そこで働く他の労働者にも冷たい職場ということだ。そうした職場の実態を見て見ぬふりして策を講じない政府も、働く妊婦にとって冷たい政府であるとともに、この国に住まうすべての人にとっても冷たい政府であるとの評価を下されることになるだろう。

さて、現政府は“ひとに優しい政府”だろうか、それとも“冷たい政府”だろうか。その評価を下すのは、私たち、この国に住まうすべての人たちだ。

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