多くの駅には炊事場があり、「食事当番」が存在した

実は一昔前まで、ほとんどの鉄道事業者は駅員の業務シフトの中に食事当番を組み込み、仕事の一環として料理をしていた。駅の控室には炊事場が用意されており、そこで駅員が駅で働く人数分の食事を調理する。例えば朝ならご飯とみそ汁やパンとサラダ、昼は麺類や丼もの、夜は肉料理や魚料理、カレーといったメニューが並ぶ。

もちろん料理の経験が少なく、食事当番を憂鬱に思う駅員もいたようだが、コック顔負けの腕を持った駅員も少なくなかったという。しかし近年では、業務効率化による駅員の削減や負担軽減、安全対策などを名目に、こうした「自炊」を行わない鉄道事業者が増えてきた。

筆者が東京の大手鉄道会社に取材したところ、現在も自炊を続けている会社は約半数で、それ以外は休憩時間に近隣のコンビニやスーパーで食事を買ったり、近隣の飲食店で食事を取ったりと、各自で食事を調達しているようだ。

東京メトロも昨年10月までは駅で調理をして食事を取っていたが、これを終了。近隣の飲食店で食事を調達しづらい朝食と夕食の提供手段として、「オフィスおかん」を導入したという。

輸送業界は食事時間が不規則で、食べる量も多い

東京メトロに「オフィスおかん」のサービスを提供するOKANの沢木恵太代表はこう説明する。

「オフィスおかん」の自動販売機。1食分の総菜が小分け袋に入っている
提供=OKAN
「オフィスおかん」の自動販売機。1食分の総菜が小分け袋に入っている

「24時間シフト勤務の多い輸送関連業界では、オフィスとは使用環境が異なり、補充など対応するオペレーションも変わってきます。共通しているのは『食事する時間が不規則』『サービスの利用頻度が高い』という点です。十分な量、十分な種類のお総菜を安定して提供する必要があるため、ただ決まった個数を納品するのではなく、利用状況について東京メトロと定期的な情報交換が不可欠です」

特に、事務所が地下にある東京メトロの導入にあたっては、自動販売機の設置や配送において、業務の邪魔をすることがないように、準備には万全を期したという。

「既存のサービス内容とは規模や条件も異なるため、担当者と何度も話し合いを重ね準備をしてから、スタートの日を迎えました。納品先の下見や納品ルートの確認も行い、新たな配送網を構築。また、食事のタイミングや要望などもヒアリングした上で、納品頻度なども考えました」(沢木氏)

その名前が示すように「オフィスおかん」は当初、ホワイトカラー業種のオフィスでの昼食需要を念頭に開発したサービスだった。しかし、近年は医療・福祉業界、そして最近は東京メトロのように運輸・物流業界へと顧客が広がりつつあるという。