感染者が同乗しても2次感染者が出なかった

IATAは今年1~3月、加盟する主要国18の航空会社への聞き取り調査を行っている。その結果、機内での感染が疑われたケースは3件報告された。それはすべて乗客から客室乗務員への感染だった。パイロット同士の感染も4件報告されたが、操縦室での感染なのか、その前後なのかは判明していないという。

また飛行後に新型コロナウイルスに感染していると確認された1100人を追跡調査したところ、同じ便に搭乗していた10万人以上の乗客なかに、2次感染者は一人も確認されなかった。乗客間の感染は疑わしい例は報告されていない。IATAのリポートでは、症例は少ないものの特別な対策を施さなくても機内での感染リスクは低いと結論付けている。

JAL 国際線機材のボーイング787-9型機。
筆者撮影
JAL 国際線機材のボーイング787-9型機。

国内の事例では、武漢から帰国したANAチャーター機計5便の搭乗者829人中、2週間以内にPCR検査を受けた815人のうち14人(1.7%)が陽性となったことが国立感染症研究所の報告として上がっている(※資料2)。同研究所のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での集団感染症例報告で3711人の乗員乗客に対し、712人の患者が発生(19.2%)したものに比べ10分の1以下の比率だ(※資料3)

感染リスクを抑える機内の高性能換気システム

機内で集団感染が起きなかった理由について、日本渡航医学会理事で航仁会西新橋クリニック理事長の大越裕文氏は、筆者の取材に対し、「機内に標準的に装備されている高機能な空調管理システムが重要だ」と説明する。

「機内は高機能な換気がされているので、感染リスクを抑えることができる。収益の面でもソーシャルディスタンスを取ることは現実的ではなく、IATAのガイドラインを遵守すれば航空旅行は可能です」

IATAも、強調されているのが客室に備わっている高機能の「空気循環システム」で工業用のHEPAフィルターの存在を挙げている。精密機械製造工場にあるクリーンルームや手術室の中の環境と同じと思えばいい。エンジンから取り入れた外気は圧縮されたのち、ろ過されてエアコン装置を通り温度が調節されて機内に流れる。機内を循環した空気は窓側座席下の吸入口より床下を通り機外に排出される。

HEPAフィルターとは?
画像資料:IATA Twitterより

一部の空気は床下からHEPAフィルターに入り、再度エアコン装置を通り機内に再循環される。天井や窓側座席上の排気口よりこの空気が排出され、機内の横向きないし下向きに流れる。この循環器は高速で流れており、機内の空気が2~3分程度ですべて入れ替わる。よって前方に飛ぶウイルスの飛沫を機内に滞留させる可能性は低いというわけだ。