勉強は「拷問」のイメージが強かった高2が意欲を燃やすワケ
同じ授業を黙って受けていたのが2年生のD君。英語が苦手な彼は、昨冬に英検3級を受験した。不合格だったが、あと1問正解だったら合格だったと知り、少し自信がついたと、うれしそうに話す。
「それまで勉強は『拷問』のイメージが強かったんですが、(英検の結果が出て)以降は、どんなに難しくても、まずは挑戦してみよう、と勉強にも積極的になりました」
夏合宿で話を聞いたときには、表情の変化に乏しく、もっとぽそぽそと話す印象だった。小さな挑戦を通して得た手応えが、D君を変え始めていた。しかも1年生の頃は部活動もせず、放課後は自宅に帰ると疲れてよく寝ていたというのだから。
授業後、高橋教頭は、自身の業務内容の変化を率直に話してくれた。
「従来の私の仕事は、各学年の時間割の作成や、不登校の生徒宅への家庭訪問などの管理業務が中心でした。退学者を一人も出さないことが、一番の優先事項だったからです」
小・中学校時代に不登校経験がある生徒もいて、同級生とのトラブルがあると、すぐに来なくなると明かした。
「一方で毎日登校してきて、授業態度も真面目で、テストでも平均点以上をとる生徒は、私から見ると、『一番手がかからない存在』。でも、その子たちも下手に叱るとすぐ学校に来なくなる。ですから叱る理由になりやすい宿題も、今まで出せませんでした。そもそも就職か、専門学校への入学を希望する生徒が多く、内申書重視の指定校推薦以外に、受験対策への需要自体もあまりありませんでした」(高橋教頭)
「一番意識が変わった先生は?」「私ですね」と教頭は即答した
指定校推薦以外の受験を希望した生徒には、個別対応をしてきた。
RDPで一番意識が変わった先生を尋ねると、私ですねと高橋教頭は即答した。自分の授業が2年生の模試の点数を左右するためだという。
「授業中に生徒によく考えさせて、個々の反応を見ながら、できるだけ習熟度に応じた問題を解かせるようにしています。今日も特別授業を終えて職員室に戻る途中、『あの教え方で、生徒たちは過去問を解けるのかなぁ』と不安にもなります。恥ずかしながら50歳をすぎて、『先生の入り口』にやっと立てた気分ですよ」
教頭はを少し紅潮させ、まんざらでもない表情でそう話した。
昨年4月の西岡の講演後に、先生と関係者が集まったキックオフ会議のことが思い出された。冒頭で挨拶に立った高橋教頭は途中、旗持ら2年生のRDPメンバーを会議室に招き入れて、熱く語りかけた。
「今まで『勉強して変わりたい』と思っている子たちは、僕らを恨んでいたと思います。今日から私たちは、そんな生徒たちに関われる学校になりたい。大人が真剣に、全力を尽くして、君たちのために動きます!」
当日初めて同校を訪れて内情を知った、記者の鼻の奥をもチクッと刺すような決意表明だった。
しかし現実は甘くない。今年1月の訪問時に、今回取材したA君ら2年生4人に、昨秋2回受けた模試の結果を尋ねた。彼らの話をまとめると、英語と数学は200点満点中、最低15点から最高45点だった。
だが、西岡は意外と楽観的だった。
「そもそも、僕も2浪していますからね。模試の点数は悪いですが、現時点では問題ありません。たとえば英語なら、単語や文法を頑張って覚えても、それらが武器になるレベルまで自分に定着させるには、3カ月はかかると言われます。大学受験は本来、長距離走なんですよ」
20年のセンター試験では一筋の希望も見えた。同校のRDP3年生の男子が、公民(政治・経済)で100点満点中88点、国語(現代文の評論と小説)で89点を取った。
「政治・経済も、国語も平均点が60点を割り込んでいたので、実質的な偏差値は60台後半だと思います。うれしい“大誤算”ですよ」(西岡)
本気の熱意は伝わる。西岡から先生へ、先生から生徒へ、そして点数にも反映され始める。誠恵高校「リアルドラゴン桜プロジェクト」は勝負の2年目に入る。(文中敬称略)