「ずっと寝ていてもいい。東大生を質問攻めにしてもいい」
昨年8月上旬、誠恵高校3学年のRDPメンバー15人が、静岡県内にあるホテルのセミナー室に集まった。2日間の夏合宿。初日の午前10時前、西岡から漫画『ドラゴン桜2』のコピーが全員に配られた。内容は、スパルタ合宿を期待して参加した男女2人の高校生が、自由に勉強してほしいと言われて戸惑い、そんな勉強はできないと合宿所を出ていく……。
西岡がこう切り出した。
「夏合宿もこの漫画と同じです。何をするかは皆さんの自由。この2日間ずっと寝ていてもいいですし、逆に、東大生たちを質問攻めにしてもいい。誰かにやらされて勉強しても、成績は上がりませんから」
生徒らは神妙な顔で聞いていた。記者は、西岡から合宿前に聞いた話を思い出した。昨年4月以降、彼は同校を毎月訪れていた。
「夏合宿は基礎学力をつける場。自主的に勉強をやり切った、という成功体験を積んでほしいです」(西岡)
それが「何をするかは自由」という狙い。西岡は同校の特長を指摘した。
「先生たちがとても熱い想いで、取り組んでくださっています。その熱量が生徒たちにも乗り移ってきて、学習習慣がついてきましたね」
スタサプ視聴の時間数で「日本一」を達成
理由は二つある。まずはスタサプ視聴の習慣。すでに昨年7月に、参加約1000校中、1学期の生徒1人当たりの視聴時間数で日本一を達成した。RDPの取り組みが、学校全体に波及効果をもたらしていた。
先生たちの奮闘も見逃せない。2年生の進学コースの通常授業から、RDPメンバー6人を分離し、別の教室で英数国の3教科を週10コマ、大学入試センター試験向けの特別授業にあてていた。平日の放課後も先生が付き添い、3学年のRDPメンバーは90分間の自由学習。さらに夏休みも、午前9時から午後4時まで学校での自由学習を見守っているという。
夏合宿の合間に2年生に話を聞いた。中学時代に不登校経験があるA君。東大受験を公言した一人だ。当初は通信制高校への進学を考えていたが、父親に全日制をすすめられ、誠恵高校には嫌々通い始めたという。
「でも、授業はわかりやすいし、自分と似た境遇の人も多い。ここなら自分もいていいんだと思えました。気持ちに余裕ができて、1年生で英検3級を受けて合格し、今年は準2級を受けたら返り討ちにあいました。でも算数が苦手で、今も小学生用の計算力ドリルに苦戦中です」
A君が東大受験を決めた動機は、西岡との出会い。偏差値35から2浪後の合格は、A君の「東大生」像とは真逆だったからだ。
「僕より偏差値が低かった人が東大生になれるのなら、自分ができないはずはないんじゃないかっていう気持ちになれました。しかも、東大生に直接教えてもらえるって、なんか特別な感じになりますよね」(A君)
合宿中の彼は、西岡とも冗談を言い交わして笑っていた。