ダイドードリンコは創業以来、商品の約9割を自動販売機で売り上げてきたユニークな飲料メーカーである。業界の平均は4割程度だから、それだけ「自販機を建てる力」を持っている企業だといえる。

<strong>向井正訓</strong>●1971年生まれ。日本大学経済学部卒。建設業界を経て95年に入社。東京の営業所でルートセールスを経験。2002年社内公募で営業開発部へ転属。05年より現職。
向井正訓●1971年生まれ。日本大学経済学部卒。建設業界を経て95年に入社。東京の営業所でルートセールスを経験。2002年社内公募で営業開発部へ転属。05年より現職。

向井正訓さんの肩書は営業開発部法人開発グループ係長。在京民鉄を担当していて、主に「駅ナカ」と呼ばれる構内施設に自販機の導入を進めるのが仕事だ。

同社はとりわけ路面設置の自販機に強さを持つ。わずかなスペースも決して見逃さない泥臭い営業が持ち味で、それは法人への営業にも活きている。ただ、本社のある関西に比べると、関東ではまだおとなしい。とりわけ関東の駅ナカでは最後発なのだという。

「大手は大量の宣伝費を投じた強力なブランドを持っています。よく知られたブランドのほうが取っつきやすい。同じやり方では対抗できませんから、うちは『実績』を訴えていくしかない」

それは言い換えると「点より面で売る」というやり方だ。1台の自販機を1つの小売店だと考え、バラエティのある品揃えを用意することで、「衝動買い」を誘い込む――。

置いてもらえればよさがわかるが、そこまでが一苦労。いたずらに「実績」を訴えても、互いの距離は縮まらない。向井さんは「雑談」を営業の中心に置くことで、ブランド力の不足を補っているようだ。

「訪問の前にはあらかじめ雑談のネタを練っておきます。お笑いでもスポーツでも、なんでもいい。相手だって訪問の理由はわかっていますから。相手に『何の用件でしたっけ?』と心配されるまで、仕事の話は切り出しません」

自分たちの都合を押しつけない。何よりもまず相手の課題を解決することが、こちらの商機につながると考えているからだ。