どの新興国が通貨危機のトリガーになるのか
新興国の通貨不安(危機)は伝染するという性質がある。新型コロナウイルスの感染拡大以降、世界のヒト・モノ・カネの流れが滞り、各国は結果的に閉鎖経済的になっていった。そのため、新興国の通貨安の問題は意識されつつも、それほど危険視されてこなかったと言えよう。
ところがアフターコロナの過程では、ヒト・モノ・カネの流れが徐々に息を吹き返し、各国経済が世界経済に再統合されることになる。そのプロセスで、下落が進んだ新興国の通貨の問題が持つ意味合いは、今よりも深刻になると考えられる。持ち直す通貨もあるはずだが、カントリーリスクが高いと判断された国の通貨は一段安となるかもしれない。
2018年8月のグローバルな新興国の通貨不安のトリガーはトルコだった。アフターコロナでグローバルな通貨危機が生じるとして、どの新興国がそのトリガーになるかは分からない。新興国の通貨危機が生じそうな場合、ないしは仮に生じた場合、世界金融危機を防ぐ観点から主要国による通貨スワップや金融緩和の強化といった対応は不可欠だ。
近年の通貨危機は、金融不安、ひいては金融危機につながる傾向がある。そして金融市場はグローバル化されており、一国の金融危機が世界の金融不安に、最悪の場合は世界の金融危機へと転じる可能性さえある。コロナ禍で不安定化した世界経済、特に主要国にとって、新興国発の通貨不安の波は是が非でも抑え込みたいノイズだ。
しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界経済の悪化を受けて、日本を含めた主要国の中銀はすでに金融緩和を大幅に強化、また大量のドル資金を供給した。その結果、金融市場では米株の回復に見て取れるように、投資家の悲観は一時期より和らいでいるが、反面で日銀のみならず米欧の中銀もまた、追加緩和の余地が非常に狭くなった。
世界経済はまだアフターコロナの出口戦略の入り口に立ったばかり、その道のりが順調に進むか定かではない。追加の政策対応の余地が乏しいという意味で、アフターコロナにおける新興国の通貨危機に対する世界経済の耐性は、ビフォーコロナよりも弱い。アフターコロナの重要なトピックとして、新興国の通貨の動向には注視したいところである。