名作エッセー『私の猫たち許してほしい』を読む
佐野洋子さんのエッセー集、『私の猫たち許してほしい』(ちくま文庫)を久しぶりに読んだ。表紙のイラストは抱き合う猫たち。1982年初版で、佐野さんの最初の結婚が破綻して離婚した2年後に出された、初のエッセー集だ。佐野洋子さんといえば絵本『100万回生きたねこ』でご存じの方がほとんどだろう。絵本という媒体になじむ、繰り返される言葉のリズム感と、拓けて展開していく物語、大人もしんみり胸を衝かれるラストシーンが猫のイラストの個性と相まって、大きな印象を残す。
本書の佐野さんは、一見、絵本とは趣が異なるかもしれない。自分というものをよくよく見つめてしまった佐野さんの、ぶっきらぼうなほど正直な言葉にひと筋の哀愁が貫いているような文章。初めてのエッセー集というのは、誰でも胸の中にずっとしまってきたものをごろんと取り出してしまうものではないかと思う。散歩の途中、林の中で「ああ、お母さん幸せだわ!」と母親が叫んだという昔の記憶。普通なら聞き流したかもしれないセリフを、普段から母親の顔色を窺って生きてきた、ちいさな佐野さんは、正面から受け取ってしまう。