「隣に誰かがいるだけで、『憂い』は『優しさ』に変わります」
美しい字でさらりと書かれたら、ささくれた気持ちもきっと癒やされるだろう。銀座のクラブでナンバーワンに上り詰めた斉藤里恵さん(25)は、日本で唯一の「筆談ホステス」。カジュアルな姿で現れ、夜のしっとりとした着物姿とは違う女の子の顔を見せる。
斉藤さんは1歳10カ月のときに病気で聴力を失った。フランス製ロディアのA5サイズメモとカルティエのペン、美しい筆跡が彼女のコミュニケーションツールだ。メモは1日に80枚は使う。
あるお客様に、生けてある花の葉っぱを1枚とって「楽」と書いて差し出した。
「パワーが出るおクスリです」
元気のなかったお客様は笑いだした。草冠に「楽」で「薬」!
「励ましたほうがいいのか、そっと見守ったほうがいいのか、人と状況を見て判断します。何が求められているかを全力で考え、あらゆる言葉を選びます」
トップ営業と売れっ子ホステスの共通項は、相手のニーズを把握するアンテナを全方位で張っていることだ。初めてのお客様は、名刺を見て話題を選ぶ。知らない会社ならそっとパソコンで検索する。
「難攻不落なお客様ほどやりがいがある。その方に合わせた筆談で、必ず常連になってもらいます」