見えない脅威に立ち向かう視覚的な効果

日本人がマスクを手放せなくなった理由を、別の角度から考えたいと思います。それは目の前の脅威が「目に見えない」ことが深く関係しています。マスクはそれを着けていることが目に見えてわかります。これは今の日本社会において現実的な利点となります。

堀井光俊『マスクと日本人』(秀明大学出版)
堀井光俊『マスクと日本人』(秀明大学出版)

現代社会においては個々人がさまざまな疾病の予防に努めることが要請されています。これには当然、ウイルス感染も含まれます。もし自分が予防に努めず病気になれば自己責任だと周囲から非難されかねません。会社などの組織レベルでも同様です。

そうした世の中では自分が、あるいは組織が予防に努めていることを周囲にアピールする必要があります。有効とされている手洗いの場合、それはいくら実践しても他人の目には映りづらいもの。しかしマスクは誰に目にも映り、責任回避の手段として有効というわけです。

最後に社会レベルでは、みんながマスクを着けることにより、非常事態であるという緊張感が生まれます。それがユニフォームのように同じ敵に立ち向かう集団の結束力を生みます。こうした社会的心理はパンデミックのような非常事態において非常に重要な要素だと思われます。どんな感染防止対策も国民の協力と団結なしには成功しませんので。

こう考えると現在の日本では道徳的な意味でもマスクは不可欠なアイテムであるということができます。マスクなしの社会生活を想像するのは難しそうです。マスクは現代日本の社会生活に織り込まれてしまっているのです。

※1 日用品大手「ユニ・チャーム」は、2007年10月、女性ブログサイト『GiRLSGATE.com』とのコラボレーション企画として、「マスクコレクション2007」(マスコレ2007)を開催。健康な女性モデルに装着させ、マスクを「ファッショナブル」なアイテムとしてその着用を啓蒙した。マスクと若年女性の接点はちょっとフェティッシュなサブカルチャー的ブームにもなった。
※2 例えば、菊本裕三『[だてマスク]依存症~無縁社会の入口に立つ人々~』(扶桑社新書)では、家庭や社会の人間関係において「本音」を出せず孤立し極端な防衛本能のためにマスク着用によって顔を晒すことを拒んでいる、と論じられている。

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