クラウド事業の促進によって、収益の柱が失われる状況
マイクロソフトの収益の柱は、パソコンにOSとしてインストールされる「ウィンドウズ」のライセンス料と、「ウィンドウズ」上で動くアプリケーションソフト「Office」の販売です。「ウィンドウズ」がパソコンの標準ソフトとなり、世界中に広がっていくにつれ、莫大な利益をもたらしました。「ワード」や「エクセル」「パワーポイント」が使える「Office」は、パッケージ商品として販売されてきたソフトです。バージョンやグレードによって価格が変わるものの、1本あたり数万円という値段で販売されます。
一方のクラウド事業は、ネットサービスやソフトを文字どおりクラウド上で提供します。パッケージ化された商品ではありません。仮に、クラウド事業で、「Office」をはじめとするアプリケーションソフトの提供を始めてしまうと、パッケージ商品の存在意義がなくなってしまいます。この点が、「クラウドサービスが以前のマイクロソフトとは相容れないビジネスモデル」であるゆえんなのです。
しかし、個人のネットワーク端末として、スマートフォンがパソコンに取って代わるようになるにつれ、クラウドの重要性はますます高まっていきました。スマートフォンで使うアプリのほとんどが、クラウド上で動くサービスだったためです。
3代目CEOが経営戦略を180度転換
時代のモバイル化、クラウド化に後れをとってしまったマイクロソフトの危機的状況を打破したのは、スティーブ・バルマー氏の後任として2014年にCEOに就任したサティア・ナデラ氏です。
ナデラ氏は、「マイクロソフトは“モバイルファースト”と“クラウドファースト”という世界を見据えた、“生産性とプラットフォーム”カンパニーである」というビジョンを掲げ、あらゆるサービスのモバイル化とクラウド化を推し進めます。中でも象徴的だったのは、「Office」のクラウド版を制作するとともに、「iOS」や「アンドロイド」でも動くようにしたことです。
自社のOS(=プラットフォーム)にこだわり、OSと一緒にソフトを売るという従来の戦略を180度転換し、ライバル会社のOSで看板商品を使えるようにしたのです。また、クラウド版「Office」にサブスクリプションを導入し、月額や年額などを支払えばユーザーが利用できるようにしました。こうした、3代目CEOのナデラ氏による大胆な施策により、マイクロソフトのビジネスモデルは大きく変わります。そして2017年あたりから、ナデラ氏の変革の成果が業績にも徐々に反映されるようになり、最高益の更新へとつながったのです。