特にCASEの中のC(コネクテッド)は、MaaSを成立させるための最も重要な要素である。地図で現在位置を表示できるスマートフォンの登場により、クルマを利用したい人と、クルマに乗せたい人のマッチングが可能となり、ライドシェアというシステムが出現した。利用者の依頼に応じて配車するオンデマンド交通やタクシーの配車サービス、シェアサイクル、物流プラットフォームや医療型MaaS、空飛ぶクルマ、さらには自動運転に至るまで、コネクテッドを抜きには語れない。“つながる”ことがMaaSの世界では、基本のキなのである。そこで自動車メーカー各社は、自動車に通信モジュールを搭載して、「つながるクルマ戦略」を推し進めている。
自動運転とAIが人間を支えるトヨタのスマートシティ
このうちトヨタは2020年1月、人びとの暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」プロジェクトを発表し、日本内外から大きな注目を集めている。それによるとこのプロジェクトは、人びとが生活を送るリアルな環境のもと、自動運転やMaaS、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、AI技術などを導入・検証できる実証都市を新たに作るものだ。建設が計画されているのは、静岡県裾野市にある「トヨタ自動車東日本」東富士工場の跡地で、東京ドーム約15個分の広さがあり、2021年初頭の着工を予定している。
プロジェクトの狙いは、この街で技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回すことで、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることだ。興味深いのは、街を通る道を次の3つに分類し、それらの道が網の目のように織り込まれた(英語でwoven)街づくりプランである。第一の道は、スピードが速い車両専用の道として、完全自動運転、かつCO2を排出しないゼロエミッションの乗り物のみが走行する。第二の道は、歩行者と、スピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道だ。そして第三の道は、歩行者専用の公園内歩道のような道である。
トヨタはこの街をWoven City(ウーブン・シティ)と名づけ、初期には、トヨタの従業員やプロジェクトの関係者をはじめ、2000人程度が暮らすと想定している。住民の生活では、室内用ロボットなどの新技術を検証したりするほか、健康状態のチェックなどでAIを日々の暮らしに役立てたりする。
最先端の実験的な都市づくりはすでに世界各地で行われているが、自動車メーカーが独自に街づくりに乗り出す事例はこれまでになく、MaaSとCASEにかけるトヨタの強い意気込みが感じられる。