江戸時代、女性の髪を扱う理美容師の仕事は禁止されていた。歴史研究家の河合敦氏は「それでも庶民の間では大流行していた。厳しい禁令も、美しい髪型でいたいという女性の願いには敵わなかった」という——。
※本稿は、河合敦『禁断の江戸史 教科書に載らない江戸の事件簿』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
女性が髪を結うようになったのは江戸時代から
「女髪結」の話をしたい。女性の髪を結う、いまでいえば理容師・美容師のことだ。
女性がみな髪を結うようになったのは、江戸時代に入ってから。それまでは貴族や武士の間でも垂髪が一般的だった。それが次第に髪の毛を束ねはじめる。当初は自分で結髪したり、友人や知人で結いあったりしていたが、次第に金を出して他人の手でオシャレな髪型にしてもらうようになった。こうして女髪結という職業が成立してくるわけだ。
ちなみに私が子どもの頃に通っていた近所の床屋は、行くと必ず天国か地獄か、どちらかの気分を味わされた。どちらかになるかは順番がくるまでわからない。店は父と娘で営業していたが、娘さんは超美人だった。襟足を剃ってもらうとき彼女の顔が間近に迫って来たり、散髪の途中、体が一瞬だけ私に触れたりする。ませガキだったので、天にも昇る気持ちだった。いっぽう父親のほうは、平気でゲップやおならをする嫌なオヤジだった。
だから女髪結と聞くと、私の脳裏には、あの美人理容師の顔が思い浮かんでくる。ただ最初の女髪結は、山下金作という男性だったというのが定説になっている。山東京山が随筆『蜘蛛の糸巻』で語ったものだ。