遺言作成に激怒した親を、涙で説得した愛娘の苦悩

父との関係、父の体調、遺言書。心配事だらけの生活で精神的なストレスを溜めていたAさんも、階段を踏み外し、病院に運び込まれることとなった。「もし頭を強く打っていたら死んでいたかもしれない」と考えると、残された息子のことが頭に浮かんだ。

死んだときに息子に苦労はかけたくない。Aさんは遺言書を書くことにした。そこでAさんは「遺言書を書くには、自分の資産状況を丸裸にしないといけない」と初めて気付いた。

そして帰省したAさんは、自らの遺言書を父に見せた。「お父さん、私、遺言書を書いて初めて気付いたの。私はお父さんに甘えていたのね。親子だから何でも言うこと聞いてもらえると思ってた。失礼なことを言ってごめんね」。

父はぶっきらぼうに「生意気言いやがって」と語るだけだったが、父の機嫌は決して悪くなさそうだった。

そして、次に帰省した際、Aさんの父は「俺のほうこそワガママだった。おまえがそこまで覚悟を決めて親をやってるとは、立派になったよ」と語り、Aさんに遺言書を手渡した。

「お父さん、私たちのことを大切にしてくれてありがとう。私も、お父さんが長生きできるように、娘としてできることはするからね」

Aさんの父は、照れ臭そうに背を向けてテレビを見た。

横井氏はAさんの行動をこう語る。

「親は遺言書を書いて当たり前という考えは危険ですね。遺言書を書くということは、資産状況を丸裸にするということ。あなたは、突然親族に『資産状況を教えて』と言われ、快諾しますか?」

そして横井氏は続ける。

「親に遺言書を書いてもらうために、自分も遺言書を書いたり、一緒に書こうと提案するのはひとつの手です。遺言書を作成しても、修正可能ですし、資産状況が変化すれば、後で書いた遺言書だけが有効になります。ですが、何よりも互いの信頼関係が必要です。まず話しやすい関係をつくるためにも週1回でいいので、電話で会話をすることも大切です。そして何より、親をひとりの人間として尊重することを忘れてはいけません」

横井孝治(介護アドバイザー)
横井孝治(よこい・こうじ)
介護アドバイザー
Webサイト「親ケア.com」管理者。介護情報のスペシャリストとして、介護に関する執筆、講演活動などを精力的に行っている。
(写真=PIXTA)
【関連記事】
「じき死ぬから」70歳独居老人の年500万円浪費の末路
「年金格差は年100万円超」老後の共働き世帯vs専業主婦世帯
この15年で130万人の営業マンが消滅したワケ
義理の親の介護をする妻がレシートを厳重保管するワケ
セカンドライフを謳歌しすぎて「貯蓄がみるみる減る地獄」に陥った老夫婦の末路