そのための最も基本的な手段はモラルハザードを起こしにくい株主に株を持ってもらうようにすることである。アメリカの場合、その手段としてよく用いられているのは、従業員持ち株制(ESOP)である。日本の場合、取引先との株式の持ち合いがその手段となっている。
モラルハザードを防ぐ第二の方法は、経営者の長期的コミットメントを高めるような報酬制度の導入である。モラルハザードを起こりにくくするというよりも、仮に起こってもその影響を受けにくくする制度である。
その典型は後払い報酬制度である。報酬をしばらく時間をおいてから支払うという方法である。そうすることによって、経営者は会社の将来の健全性の維持に配慮せざるをえなくなる。ストックオプションも後払い報酬制度としての性格を持たせることができるが、その大きさを決める株価が短期的な経営政策によって左右される場合には、かえってモラルハザードを助長してしまう場合もある。日本の退職金は典型的な後払い報酬である。従業員への年功賃金も後払い賃金としての性格を持っている。
第三は、コミットメントを持つファミリーに統治をゆだねるという方法である。日本でも欧米でも用いられる方法である。ファミリーはその資産の大部分を会社に投下しているため、会社が倒産すると、財産のほとんどを失ってしまう。法的には有限責任であっても、実質的には無限責任を持つに等しい。その結果、企業の長期的な健全性を維持するように行動する。欧米の場合、ファミリーによるガバナンスを可能にするためによく用いられるのは優先株である。ファミリーが普通株を持ち、一般には優先株を流通させ、支配権の分散を防ぐという方法である。
日本でも優先株が制度的には発行できるが、これまであまり用いられることがなかった。株式の持ち合いによって、ファミリーによるガバナンスが可能になっていたから優先株の発行の必要性がなかったからである。しかし、持ち合いが困難になるにつれ、優先株の必要性は高まっている。残念なことに、日本では優先株の人気は低かった。優先株の存在意義についての社会的な認知を高める必要がある。