「世界選手権でチャンピオンになったことなんて忘れろ」

ロンドン、リオと2大会連続でメダルを獲った星奈津美は、周囲の声がプレッシャーになり、モチベーションが上がりにくかった。そこで平井さんは、「世界選手権でチャンピオンになったことなんて忘れろ」とアドバイスしたのだという。

萩野公介(左)はリオデジャネイロオリンピックで金メダル。北島康介(右)はアテネおよび北京オリンピックで計4つの金メダルを獲得した。
萩野公介(左)はリオデジャネイロオリンピックで金メダル。北島康介(右)はアテネおよび北京オリンピックで計4つの金メダルを獲得した。(Getty Images=写真)

「そんなことに縛られず、チャレンジする気持ちが大事、という思いで話したら、本人も気が楽になったようです。萩野公介も、モチベーションの源泉となる『なぜ泳ぐのか』という本質的な部分より、人からの評価を気にしていたことがあった。それが苦しさや迷いにつながったのだと思います。時間は少しかかりましたが、“自分のために泳ぐ”という根本に立ち返った今は、これまでより楽しんで泳いでいるように見えますね」

競技とは関係ない悩みでモチベーションが下がる場合もある。要因を探るために、マズローの欲求5段階説の話をしたりしながら、コミュニケーションを重ねていくそうだ。すると、人間関係で悩んでいる、単位が取れていない、恋人と別れた……など様々な要因が明らかになるとか。

ちなみに、超ポジティブな北島でも、金メダルを獲った後にはモチベーションが上がらなかったそうだ。

「大きな目標だっただけに、どうしても達成感が出てしまいます。だからこのときだけは、次の目標が出てくるまでプレッシャーをかけず待つことにしたんです。つい『頑張れ』と言いたくなってしまいますが、本人が充実してくれるのを待ちました。私自身も探り探りでしたが、結果的には『思うようにいかないときに一緒に考えてくれた』と感じてくれたのかな。共に前に進むことができたんです」

平井伯昌(ひらい・のりまさ)
競泳日本代表監督
アテネオリンピック以降、北島康介、中村礼子、寺川綾などメダリストを輩出。2004年のアテネオリンピックからは競泳日本代表にコーチとして参加。現在、東洋大学水泳部監督、競泳日本代表監督を務める。
(撮影=平山 諭 写真=Getty Images)
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