逮捕後、性格にも変化が起こってしまった

【塚本】2016年に危険ドラッグの製造・所持で逮捕された後、私の環境は大きく変わりました。私自身の性格にも変化があり、「人と話すことに対する恐怖心」が芽生えてしまいました。たとえば今日、電車で新入社員と思わしき若者50人くらいの集団を見掛けたんです。もともと私は気軽に人に話し掛けてしまうタイプで、このときも以前の私だったら、彼らに「どこの会社なの?」「どこに行くの?」などと質問していたでしょう。ところが、逮捕されて以降、人に話し掛けることが怖くなってしまい、話し掛けられませんでした。

人と話すことが大好きだった私が、会話を怖れるようになってしまったと気づき、「そりゃうつにもなるよな」と再確認しました。ただ、うつで怖いのは「少し動けるようになった時期」ではないでしょうか。私は施設に行くことが決まった2017年の夏頃、先が見えて少し元気になったかな? という時期に、なぜか「人生を投げ出してしまおうか」とも考えたことがありまして……。

【松本】そうだったんですか。もしかしたら、施設に行かせない方がよかったのかな?

【塚本】いえいえ、私の場合、松本先生との診察が月に1回あったので、そこで気持ちをぶつけて踏みとどまることができ、むしろ感謝しています。とはいえ、「うつ症状が和らぎ、先が見えて、体も動けるようになった時期」って怖いなと感じたんです。

薬物依存者の多くは「人に頼るのがヘタ」

精神科医 松本 俊彦
写真=永井 浩

【松本】たしかに怖いですね。実際、自殺が多いのはうつの症状が一番酷い時期ではなく、少し軽くなってくる時期ですから。うつの重症度がそれほど深刻ではない人であっても、その時期は危険。塚本さんにも、そうした危うい局面があったんですね。

【塚本】やはり病院や自助グループ(薬物をやめたい人が集まるコミュニティ)などと繋がることが大事なんだと思います。それまで私は「自分ひとりで解決しなくては」と思い込んでいましたし、これまでの人生でも「人に助けを求めてはいけない」と考えていましたから。しかし、病院と繋がったことで、「人に頼ってもいいんだ」と思えるようになり、すごく気持ちが楽になりました。

【松本】塚本さんもそうだけど、ほかの薬物依存症の人たちもセルフ・スティグマ(自分自身に持つ偏見)が強くて、“頼るのがヘタな人”が多いんです。しんどいときでも自分で解決しなくてはいけないと思い込んでいるから、酒やクスリを使ってその場を乗り切ってきた、という人が多い。だから「頼ってはいけない」という自縛に加え、「刑事法で罰せられた犯罪者」という事実がますますそのスティグマを強めてしまう。そんな人たちが精神科を訪れるというのは、実はすごく大変なことなんです。