東日本大震災は、海底の生物にも影響を与えた。震災前と震災後に岩手県の大槌湾と船越湾を調査していた清家弘治氏は「震災前後で海底の風景は全く変わってしまった。だが、震災を生き延びた生物もいた。我々がみつけた二枚貝は、なんと92歳だった」という――。

※本稿は、清家弘治『海底の支配者 底生生物』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

山田湾より船越湾方面(2016年08月13日)
写真=時事通信フォト
山田湾より船越湾方面(2016年08月13日)

海底でも「液状化」が発生していた

2011年に発生した東日本大震災は、陸上、沿岸のみならず、実は海底生態系にまで大きな影響を与えていたことをご存じでしょうか。

2011年の大震災は、地震と大津波という二つの要因に大きく分けることができます。

まず、地震の震動が海底生態系に及ぼす事象について考えてみたいと思います。

私が研究するユムシやゴカイ、貝やシャコなど、いわゆる底生生物の生息場所である海底地盤は、砂や泥などの堆積物に加えて、海水を含んでいます。ざっくりと説明しますと、海底地盤とは堆積物粒子の間を海水が充填している状態です。地震によって海底地盤が上下左右に揺すられると、海底地盤は液体のように振る舞います。この現象を「液状化」と言います。

地盤の液状化と聞くと、埋め立て地の住宅街で家が傾いた、というニュースがよく報道されていることもあり、陸上特有の現象であると思われているかもしれません。しかし実際には、海底地盤の液状化は常に水没している潮下帯でも生じます。2011年の東日本大震災の際にも、潮下帯の干潟で液状化が生じましたし、おそらく海面下の砂泥底でも発生していたはずです。