地表の7割を占める海底。そこに穴を掘って暮らしているのが「底生生物」だ。海底生物学と海洋地質学を専門とする清家弘治氏は、「海底には、ヒトの家に住むゴキブリやネズミのように、他の生物の巣穴に住み着く小さな生き物がいる」という――。
※本稿は、清家弘治『海底の支配者 底生生物』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
ジャングルジムのような「坑道」を掘るスナモグリ
スナモグリという底生生物がいます。節足動物で甲殻類であるスナモグリもアナジャコと並んで、われわれ巣穴形成生物研究者にとって、「スター」とも呼べる存在です。
スナモグリの巣穴は、三つ叉に分岐した迷路状のトンネルが続いているのがその特徴です。大変に複雑、しかし規則性のある形状で、たとえるならばジャングルジムのようになっています。
そしてこの複雑な巣穴には、やはりちゃんとした生態学的な意味があるのです。
スナモグリは海底の堆積物に含まれている有機物を主なエサとしています。そのため、エサにありつくためには地中を掘り進まないといけません。
そしてなるべく効率的に海底の下を探索し、エサを掘り当てるためには、このような巣穴の形が理想的というわけです。まさにこの巣穴はスナモグリが海底に作った“坑道”だといえるでしょう。