居候でタダ飯食いのヒメマスオガイ

先述したスナモグリの巣穴にも、多くの小型共生生物が生息しています。

清家弘治『海底の支配者 底生生物』(中公新書ラクレ)

大きさ1センチメートルくらいのヒメマスオガイやクシケマスオガイという二枚貝がいます。彼らの仲間は、アナジャコが掘った巣穴の中に水管を伸ばして生息しています。

本来、捕食者が多い地面から逃れるためには、海底の土に潜ったり、自ら地面を掘り進んだりして生活する必要があります。しかし既に開いている巣穴に居候する道を選ぶことで、地面を掘る能力が無くても、安全な暮らしができているのです。

ヒメマスオガイの仲間も、その主食は海水中に浮遊しているプランクトンです。そのため、アナジャコの巣穴にひそんでいれば、アナジャコが起こす水流によって、そのエサまで自動的に運ばれてくる、ということになります。

安全で快適な家がタダで手に入り、ご飯まで目の前まで勝手に来るなんて、なんと羨ましい生活なんだろう、と思われた読者の方もきっと多いのではないでしょうか。

シャコの巣穴には「ヨーヨーシジミ」が住んでいる

シャコの巣穴の中にも、興味深い共生生物がいます。特に面白いのが「ヨーヨーシジミ」と呼ばれる仲間でしょう。

ヨーヨーシジミはウロコガイと呼ばれる二枚貝類の一種。彼らは先ほど紹介したトラフシャコの巣穴の天井に足でくっついて、吊り下がって棲んでいます。

ではなぜヨーヨーという名称が付いているかというと、時折縮んだり、伸びたりを繰り返している様子が、文字通り、オモチャのヨーヨーに似ているからです。

ヒメマスオガイやヨーヨーシジミら、巣穴内にひそむ共生生物に共通しているのは、体のサイズがとても小さいということです。なおヒメマスオガイの体長は先ほども紹介したように大きくても1センチメートル、ヨーヨーシジミに至っては5ミリメートルしかありません。

巣穴の主に見つかってしまうと巣穴の外に放り出されてしまうかもしれないし、また、おこぼれで得られるエサの量もさほど多くは見込めないでしょうから、小さな体でいなくてはならないのも、仕方がないのかもしれません。

振り返って考えれば、私たち人の家に棲む共生生物も、おおむね目立たない大きさのものが多いのではないでしょうか。犬ぐらいの大きさがあるゴキブリやネズミがいたら、われわれは即座に家から叩き出すに違いありません。

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