体は小さいけれど、巣穴と影響はとても大きい

なおスナモグリ自体、体長は数センチメートルしかありません。しかし、その巣穴は巨大で、深さ1メートルに達するものも知られています。

画像=『海底の支配者 底生生物』

スナモグリが掘り崩して生じた余分な砂は、巣穴開口部から地面へと放出されます。その結果、スナモグリがたくさん生息している干潟では小山状になった砂が多数見られます。

また時折、巣穴の入り口から勢いよく砂が噴出している様子を見ることができます。このことを火山にたとえて、「サンド・ボルケーノ(砂火山)」と呼ばれることもあります。

このスナモグリも、海底環境を著しく改変する生き物です。彼らの摂食活動によって干潟の砂が激しく撹拌され、干潟の地盤そのものが軟らかくなることが知られています。

地盤の硬さが変われば、そこに生息できる生物種も変わります。また、スナモグリによる海底堆積物の撹拌作用によって、海底下深くまで新鮮な海水が送り込まれるため、海底下の化学環境までもが改変されてしまいます。

スナモグリ自体はとても小さな生き物なのですが、その巣穴は大きく、そして干潟の環境を変えてしまうほどに大きな存在といえます。

人様に掘ってもらった巣穴に住み着く生物がいる

なお底生生物が作った巣穴の中に棲んでいるのは、実は、巣穴を作った本人だけではありません。

そもそも巣穴は海底下にあるため捕食リスクが少なく、また巣穴の主が自らの呼吸のため新鮮な(酸素に富んだ)海水を引き入れているので、多くの小さな生き物たちにとって安全かつ快適な環境といえます。

実際、この恩恵にあずかろうと、多くの小型生物が巣穴の中に居候しています。広い意味での共生関係が、巣穴の中に存在しているわけです。これは人の家の中に、ゴキブリやネズミが勝手に居着いているのと同じです。