在宅勤務を「育児と仕事の両立支援策」として始めた

この「在宅勤務」はもともとBCPの一環としてアメリカ企業で始まった。とくに2011年の東日本大震災以降、関心を示す企業が増えたが、問題点がひとつある。

なぜか日本では天災や疾病などのBCP対策というより、どちらかといえば「育児と仕事の両立支援策」としての在宅勤務が全面に押し出されたのだ。

政府の「働き方改革実行計画」(2017年3月)ではテレワークについて「時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力開発発揮が可能となる」とうたっている。この時点で、BCPの本質とはズレが生じている。

在宅勤務する父と一緒にいる息子
写真=iStock.com/kohei_hara
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課題は他にもある。

このテレワークを導入する企業がこれまでなかなか増えなかったのだ。政府は目標(KPI)として2020年にテレワーク制度導入企業34.5%、雇用型テレワーカー15.4%の達成を目指しているが、政府のかけ声とは裏腹にテレワークの導入率は低いままだ。

総務省の「平成30年通信利用動向調査」によると企業のテレワーク導入率は19.1%にすぎない。また、国交省の「平成30年度テレワーク人口実態調査」によると、雇用型テレワーカーの割合は10.8%となっている。

近年はセキュリティを含めたICTの進化とコストの低下もあり、在宅でも社内イントラネットの活用やウェブ会議といったコミュニケーションツールも利用しやすい環境になっている。それでも政府目標には遠いのが実態だ。

「在宅勤務は育児する社員の福利厚生。生産性向上に結びつかない」

なぜここ数年、「働き方改革」が叫ばれる中、「育児・介護」向けとしている在宅勤務を導入する企業が増えないのか。

大手医療機器メーカーの人事担当役員はこう話した。

「テレワーク(在宅勤務)の要諦は生産性の向上にあると思っています。だが実際は育児中の社員のための福利厚生策となっている。それでは生産性の向上には結びつかないので当社では導入していない」

筆者の取材では、在宅勤務の取得理由を限定していない企業でも週1日、月4日程度の利用しか認めていない企業も多い。