性の多様性の4要素

さっそくだが、次の4つの要素の組み合わせで性の多様性を理解していくのが現在では標準的である。

性の多様性の4要素

「出生時に割り当てられた性別」については、生物学的性別と言った方が理解しやすい人も多いだろう。ただし、「生物学的」とされてきた性別判断も、実際には自然科学的な専門知と社会的常識を組み合わせてなされていることから、(特に後述のトランスジェンダーに関する議論や実践の中では)「出生時に割り当てられた性別」というより、正確な表現を使うことが現在では少なくなく、本稿もその方針を踏襲している。

さて、女装は上記の4つの要素のうち「性表現」を使って説明することができる。「女性が女装する」という言い方は(しないわけではないが)それほど一般的ではないので、男性が「女性らしい」性表現をすることが「女装」と呼ばれていると考えてよいだろう。

だれを「男性」と呼ぶべきか?

しかし、ここに次の疑問が立ちはだかる。ここで言うところの「男性」とは上記の4つの要素のうちのどれなのか。

ぜひ押さえてほしい重要なポイントはここだ。性の多様性に関する議論における現在の標準的な言葉遣いでは、性別に関する当人の身体感覚や自己認識を尊重しようという考えから、出生時に割り当てられた性別ではなく、性自認が男性である人を男性と呼ぶ。

具体例をあげよう(ここから先は「LGBT」に関する下記の図表を見ながら読んでほしい)。マツコ・デラックスさんは、男性としての自認をお持ちで、男性を性愛の対象とする方なので、同性愛者の男性である。したがって、メイクや衣装などの性表現から判断して、彼が女装していると考えることに問題はない。

LGBT当事者の身体感覚と自己認識

他方、はるな愛さんは出生時に割り当てられた性別が男性であり、現在女性としての性自認を持って活動なさっているので、彼女はトランスジェンダーの女性である。したがって、メイクや衣装などの性表現は、彼女の性自認に沿ったものであるだけであり、それを女装とは呼ばない。