彼女がときおり出生時の名前でもある「大西賢示」としてのキャラクターを提示するのは、はるな愛さんが「本当は男性」であることの証拠などではなく、むしろ、あえて言うならば彼女がときおりパフォーマンスとして「男装」していることを示しているのである(もちろん、これらはあくまでそれぞれの方に関するいくつかのインタビュー記事や番組出演時の発言に基づく単純化された推測であり、マツコさんやはるなさんの本当の性のあり方については、ご自身やその親しい友人でなければわからない)。

「男の娘」はトランスジェンダー女性にあたる?

せっかくなので他の現代的な事象についてさらに検討してみよう。「男の娘(おとこのこ)」という言葉をご存じだろうか。「出生時に割り当てられた性別」と「性自認」がともに男性で、女性の格好をする男性のことを指す言葉である。「男の娘」は、たとえばはるな愛さんと同じようにトランスジェンダー女性なのか?

答えは「ノー」だ。現在では、「性自認が男性で、女性の格好をしたい」あるいはその逆であるだけでは、トランスジェンダーには含めないことが一般的なのである。実は、「女性の格好をしたい」ことは「女性になりたい/自分は女性だと認識している」ことに近いとされていたので、異性の性表現をおこなう人(異性装者)は「トランスヴェスタイト」と呼ばれ、「トランスジェンダー」の一部だとかつては認識されていた。

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しかし現在では、「性表現」はその人の「性自認」を必ずしもあらわしているわけではなく、「性自認に沿った性表現をする人が多いとしても、両者は別の要素」と考えるのが一般的である(余談ではあるが、拙著『LGBTを読みとく』出版時に、「記述が古い」と批判を受けたのもこの点に関する記述であった)。したがって、「男の娘」はもちろん異性装者ではあるが、トランスジェンダーではない。

改めて、女装はLGBTに含まれるか

具体例を経由してきたので、最後に本稿のタイトルにもなっている疑問を考えてみよう。下記の図表を見ながら読んでほしい。

LGBT当事者の身体感覚と自己認識

L、G、Bは性自認と性的指向の組み合わせに関する、Tは出生時に割り当てられた性別と性自認の関係にまつわる性のあり方である(空欄は何であってもよい。また、この表にはあらわせない性のあり方がたくさんあることも補足しておく。そもそも人の性のあり方を図表の中に押し込めること自体とても乱暴だが、説明のための方便としてお許しいただきたい)。