ただし、競泳の20秒間というのは微妙な時間で、25メートルのプールではターンが入ってしまうし、50メートルでは途中で終わります。そこで、選手の腰にゴムのチューブを巻いて、反対側をプールサイドに固定し、同じ場所で20秒間全力で泳ぎ、10秒間休むというのを繰り返します。これが実際にやってみると相当にキツい。10セットもやれば、吐きそうになって、根性練より根性がつきます(笑)。

僕の現役時代は10キロメートルを朝昼晩と3回泳ぐこともありました。その泳ぎ方は練習の強度でいえば低いもので、低強度を長時間つづける方法。それに比べて、タバタは高強度で低ボリューム。そもそも発想が違います。

肉体の回復が早いのもメリットです。吐くほどキツい練習でも、運動時間が短ければ意外と翌日は疲労が残っていません。1日30キロメートルを泳ぐようなトレーニング法は、翌日もその疲労を抱えたまま、また泳ぐことになります。練習意欲の面でもよくないでしょう。

“根性練”がもたらす最大の効果

ただし、長く泳ぐ練習法が無意味というわけではありません。中学高校時代に“根性練”で育った選手は、20歳を超えてもスタミナが違うという実感があります。問題は、ヘトヘトになるまで泳ぎつづけるとフォームが崩れることです。そのため現在の選手は、トレーニングバイク(自転車)を取り入れています。サドルに座ってハンドルを握る姿勢はヘトヘトになってもブレませんし、水泳のフォームには影響しません。

無理な動きで筋肉を痛めるなど故障の心配も少ないのです。室内の酸素濃度を下げ、高地トレーニングと同じ環境にできることもメリットの1つです。僕の学生時代に比べると、現在の選手はプールで泳ぐ時間は圧倒的に減っています。しかし、バイクやマシンを使う陸上でのトレーニングが増えて、トータルの練習時間は増えている印象です。

長期的に見たトレーニング法の変化もあります。昔は試合や大会は年に数回しかなく、大きな競技会に向けてピークを調整していました。現在は毎月のように大会が開かれ、トレーニングの成果を頻繁に確認できるようになりました。試合では全力が出ますし、ミスをすれば反省も大きい。場数を踏んで勝負の駆け引きなども身につく。現在は、試合もトレーニングの一部となっているのです。

そういういくつもの点で、現在は僕の学生時代とは大きく違っています。全力と休息を組み合わせた短時間のハードワーク、気分が切り替わる多様なトレーニングの組み合わせ、試合による成果の確認などは、仕事にも活用できる発想ではないでしょうか。

(構成=Top Communication 撮影=松本昇大)
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