アメリカではギグワーカーの労災補償と生活を保護する法律施行
実はこうしたギグワーカーの労災補償と生活を保護する画期的な法律が今年1月1日に施行された。
といっても日本ではない。アメリカのカリフォルニア州のギグワーク法(AB5法)と呼ばれる法律だ。最大のポイントはギグワーカーなどが一定の基準をクリアすればカリフォルニア州の最低賃金、残業代などの賃金の保護を受け、病気休暇、失業手当のほか、労災補償給付などが受けられる。
わかりやすく言えば、ワーカーが会社からアプリなどで業務の指示を受けている、ワーカーが法人のような独立した事業者ではないといった条件を満たせば、労働者と見なす、という内容。業務委託契約を結び、形式的には個人事業主であっても就業実態を見て労働者の権利を与えようというものだ。
この法律はライドシェア「ウーバー」のほか、競合の「リフト」などのプラットフォーマーを標的にしたものだ。一方、プラットフォーマー側は法律が適用された人の労災保険料、雇用保険料、社会保険料などを支払わなければならなくなるため猛反発している。
アメリカには専門的技術を持ち、高い報酬を得ているギグワーカーもいるが、ライドシェア運転手や宅配サービスのように比較的簡単な業務は収入が不安定になりやすい。そうした不満を持つギグワーカーがアメリカ各地で労働者の権利を求めて会社を提訴している。
アメリカに限らない。イギリスでも2016年に労働裁判所がウーバーに対してライドシェア運転手との雇用関係を認める判決を下している。
代理のドライバーを立てられなければ約1万4000円の制裁金
イギリスといえば、主人公の宅配ドライバーの家族の悲惨な日常を描いたケン・ローチ監督の『家族を想うとき』が日本で上映されている。あらすじは以下のようなものだ。
最初は妻と2人の子供が暮らすマイホームの夢を見て、父親は大手のプラットフォーマーと契約し、個人事業主の宅配ドライバーになるが、途端に労働条件の過酷さに打ちのめされる。
配達個数の多さやルートと到着予測時間を示す装置に振り回され、夜遅くまで働かざるを得ない。家族のトラブルで1週間休ませてくれと会社に頼むと、代理のドライバーを立てられなければ、契約通り1日あたり100ポンド(約1万4000円)の制裁金を科すと迫られる。
それでも家族のために懸命に働くものの、事故に遭遇。大ケガを負うが、治療費は支給されない。専業のギグワーカーになったが、結局、ワーキングプアを脱することができず、家族の崩壊の予兆までをリアルに描いている。
こうした状況はイギリスやアメリカだけに起きている現象ではない。