試行錯誤により解決する現場発の改善
「あいまいな点を突きとめ、試行錯誤によって解決する」というよく似たやり方はアメリカでも報告されている(スティーブン・J・スピア「トヨタ生産方式で医療ミスは劇的に減らせる」ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー2006年8月号。ちなみにこの論文は05年度のマッキンゼー賞論文)。
ピッツバーグのウエスタン・ペンシルベニア病院では、1日平均42人の手術を受ける患者がいる。手術にあたって血液検査のための採血が行われる。そのための採血は、看護師が検診のときに自分でやることもあれば、専門技師に頼むこともあった。しかし、別の用事が割り込んで、そちらに看護師の気が奪われてしまうと、だれもやらないこともあった。こうした成り行き任せのやり方のせいで、患者の6人に1人は、いざ手術室に運ばれる段になっても血液検査の結果が出ていないということが起こっていた。その遅れによって、手術スタッフの待機時間が生まれる。計算すると、待機コストは1分間あたり300ドルにもなるという。患者にしてみても、絶食をしているうえに不安が重なり、ときには中止になることもあるというのではたまったものではない。
こうした事態が生じるのはあいまいなことが重なり合っているからだ。それを少なくするために、いろいろな試行錯誤が試みられた。採血したかどうかが一目でわかる標識をつくる。専任の採血係を置く。それでこの種のミスは激減した。だがそれでも、手術時に検査結果のわからない患者が少ない数だが出てきた。調べると、採血のタイミングが遅くて検査結果が手術に間に合わないというわけだ。そこでさらに、手術のタイミングに合わせて採血するためのアイデアが探られて……。こうしてプロセスは改善していく。
プリコラージュ型の病院経営改革事例で注目したいことは、1つのプロセスの改善が、(1)患者満足の向上、(2)医療の質の向上、そして(3)医療コストの低減に貢献しているということである。まさに「一石三鳥のプロセス改善」なのだ。先の計画制御との違いは、図2のように図式化して比較すればわかりやすい。
先の計画制御の手法は、それぞれに独立した課題に対してその原因となる要因を識別することがカギになる。一見、うまいやり方に見えるが、3つの課題はそもそも重なり合っていない。そこに問題がある。それは、「3つの戦略がすべて現場に降りてくるとき、現場はそれをこなしていけるのか?」「独立した戦略なので、現場でそれぞれに矛盾する指針が出てこないか?」といった問題である。計画案は美しい形に仕上がるかもしれないが、現場での実行可能性は実は保証されてはいない。
他方、プリコラージュ型は、現場が考えるのでそんな心配はない。アイデアは即、実行可能である。なにより、それを通じて病院の3つの課題(患者満足と医療の質の向上と経営の合理化)は同時に解決されていく。というより、そもそも改善は3つの課題の同時達成を目指して始まるのだ。
どちらのやり方が実効性をもつのか、読者の皆さんにはもういうまでもないだろう。