1990年代後半から2000年過ぎにかけ、過剰反応的な製造業悲観論が日本を覆っていた。それが一転、昨今は「ものづくり」ブームともいえる現象が起きている。筆者は偏ったマスコミの報道に異議を唱える──。

現場とマスコミ間にあった「ものづくり観」のズレ

昨今、「ものづくり」という言葉を新聞やテレビでよく見聞きするようになった。ものづくり経営学の専門家を標榜する筆者にとっては、喜ばしい話ではある。数年前と比べれば隔世の感がある。

世紀の変わり目の2000年ごろ、大手新聞、例えば日本経済新聞の1面で「ものづくり」という言葉を目にすることはほとんどなかったと記憶する。1面をにぎわしていたのは、日本経済は衰退する、とくに金融や建設が弱い、一部の事業会社の業績も悪化している、外国企業に負けている、外資の傘下に入っている、地方経済が疲弊している、製造業は中国にシフトしている、等々、総じて悲観的なものばかりだった。ものづくり現場の粘りや強みは、そこからは伝わってこなかった。