そこで、「8050問題」のひきこもり当事者の1人として登壇した50歳代の男性は元々、技術職の正社員として働いていたものの、人間関係や超過勤務などから身体を壊して退職した。しかし、すぐに次の仕事に切り換えることができなかったという。その後も、アルバイトを探して働いたものの、長続きしなかった。
派遣の仕事に就いても契約が切れてしまい、「早く次の仕事を見つけなきゃ」という焦りに追われているうちに、眠れなくなった。うつ病の薬を処方されたものの、ズルズルと薬を飲む生活が続いてしまった。
そして、最後に派遣で入った会社でパワハラに遭い、暴言を浴びた翌日から出社できなくなった。そのまま、ひきこもり状態に陥ったが、家族からも周囲からも「仕事はいくらでもある」「仕事をしろ」などと責められた。「自分としても、もちろん仕事をしたかった。しかし、どうしても行動に結びつけられないほど、心理的ハードルのほうが高かったんです」
一度レールを外れると元に戻れなくなる社会
履歴書を書いて応募しようにも、ひきこもっていた間の空白をどう埋めればいいのかわからない。「この仕事ならできそうかな」と思って、求人先に電話しても、担当者から「ちょっと難しいですね」と断られる。
「応募して断られるたびに、『あなたのスキル不足ですよ』と言われている気がしました。それが何回も続くたびに、正社員時代の技術職の自負があるだけに、自信の喪失が積み重なっていったんです」
一度レールから外れると、元に戻れなくなる社会の構造がある。求められているのは、神スペックと言われる人材で、履歴が重視される。非正規や派遣が増え、採用されても待っているのは、低賃金や超過勤務、いじめやハラスメントの横行する職場環境だったりする。
今は令和の時代だというのに、右肩上がりの高度経済成長の頃に設計された終身雇用が前提の雇用の仕組みは、未だ変わっていない。「働くって何なのか?」
前出の男性は、「就労」の目的が生活していくことにはつながらないように感じているという。公的機関に相談に行っても、40歳という年齢で区切られて受け付けてもらえなかったり、ミスマッチな支援しかしてもらえなかったりと、疎外感を抱くことが多かった。
「働くことというのは、本当は、世の中に貢献できるとか、自分がこの社会に生きていることを確認するための手段なのかなって、思うんです」