なぜ、「記念受験」なのに開成に合格できたのか
冬期講習の効果はてきめんだった。
自宅に戻った後も、人格が入れ替わったかのようにSくんは勉強に熱中した。
「『部屋で勉強する。集中したいから入ってこないで』と言われたときは、本当に我が子か? と疑いました(笑)。どうしても信じられなくて、何度もこっそり覗きに行ってしまいましたね」
これまでは一人でテストを解き、インターネットで結果を確認していたが、冬期講習では皆で一斉にテストを受け、翌日には結果が張り出される。通信教育用の映像授業は見るだけだが、実際の授業では質問や雑談が飛び出す。何より、同じ開成合格を目指して頑張る友だちとのやりとりが大いにモチベーションアップにつながったのだ。
全国に散らばるライバルたちの存在
開成の合格発表でSくんの発した「あった! あった!」といううれしそうな声を母親は忘れられないという。「記念受験」ではあるが、努力した証としての“合格”を手にできたことはとても誇らしかった。
開成の合格発表会場では、アイビーリーグ視察団で知り合ったママ友とも会話を交わした。彼女の息子も開成に合格したのだが、「じゃあ、次は東大でね」と言われ、ひどく驚いたと言う。
「中学に入学した途端、大学のことを考える感覚なんて地元にはないんです。その意識の高さに驚いてしまって」
さらに、お礼に行った塾でも同じセリフを先生から言われ、「これが首都圏では当たり前の感覚なんだ」と改めて驚いたという。
現在Sくんは、地元の中高一貫校の附属中学校で運動部に入部し、勉強に部活に学校行事にと忙しく充実した日々を送っている。中学受験で頑張った分、今度は大好きなスポーツを思いっきりやってほしいと話す母親だが、同時に全国統一中学生テストを受けさせるなど、勉強への意識がだらけないようにも注意している。
「息子が東大を目指すのかどうかはまだわかりません。ただ、全国に良きライバルがいることを常に意識はしておいてほしいと思っています」
地方在住でありながら、開成合格までたどり着けたのは、母親が時間もお金もかけてライバルの背中を見せたから、ということに尽きる。それは中学受験だけで終わるものではなく、Sくんにとって同世代のライバルの存在を心に刻む機会にもなっただろう。
「息子に自分のライバルを可視化することが、息子の人生をより良い方向へ進めることになる」と信じた母親の賢い選択が、開成合格という勲章をもたらしたのだ。