内発的動機の強い社員が多い企業として、多くの人が思い浮かべるのはリクルートではないでしょうか。実際、同社にはあらゆる機会を捉えて「あなたはどうしたいか?」と社員に問いかける社風が根づいています。その結果、創造性の高いアイデアが次々に生み出され、社員が自律的にそのプロジェクトに取り組む好循環が生まれています。

「うちの社員はもともとベンチャーマインドの高い企業の社員とは違うから」と諦めているリーダーもいるかもしれませんが、内発的動機を引き出すことは老舗企業の場合も不可能ではありません。

有効とされる方法のひとつが1on1。周知のとおり、シリコンバレーで広く行われ、日本でも多くの企業が導入している育成手法です。上司と部下が一対一で話し合うことで日ごろの悩みの解決を図るほか、やりたいことや才能に目覚める機会につなげます。

米シンシナティ大学のグラーエンらの研究によれば、部下の悩みや課題を引き出すアクティブリスニングを行うと、リーダーと部下における質の高い心理交換関係、つまり「えこひいきの関係」が高まり、部下のモチベーションが上がることがわかっています。もしそのリーダーが優秀で、部下全員をえこひいきできる“最強リーダー”であれば、全員の資質を聞き出して自覚させるとともに、個性に応じ、適材適所の配置を行うこともできます。部下の自己効力感は高まり、ますます内発的動機が喚起されるに違いありません。

27歳で社長就任3代目が取り組んだ社員の意識改革

今回は社員に自らの個性を発見させ、変革を起こした理化電子の事例から、具体策を探ってみることにしましょう。

半導体検査部品などの製造販売を手掛ける理化電子。設立は1961年で、90年代前半には早くも海外展開をスタート。今や世界各国に拠点を構えグローバルニッチ企業としての存在感を高めています。

3代目社長、戸田泰子氏は大手コンサルティングファームの出身。2015年、27歳の若さで代表に就任しました。半導体技術など門外漢だった戸田氏が徹底してこだわり抜いたのが、ほかならぬ内発的動機づけだったといいます。

同社は創業者の祖父、海外展開で事業を拡大した父の強いリーダーシップのもと経営が行われてきました。そのため、就任当時の社員たちは、自ら考え挑戦する意欲を失っているように見えたそうです。

「半導体をめぐるグローバル競争は激化しており、単にいいモノを作れば売れるという時代ではなくなっていました。変革を起こさなければ生き残りは厳しいと痛感しました」(戸田氏、以下同)