麻原にとって、富士山は信者が生き残るための方便
しかし他方、麻原は第3次世界大戦を意味する言葉として、ハルマゲドンという言葉も使っている。この言葉は「仏教の経典」ではなく、『新約聖書』のヨハネ黙示録第16章に出てくる。終末的な戦争が行われる場所、転じて世界の命運を決する最終戦争を指す。90年代にはオウム真理教のほかにも、エホバの証人(ものみの塔聖書冊子協会)のようなキリスト教系の新興宗教が、同様に近い将来におけるハルマゲドンの到来を唱えていた。
ベストセラーとなった五島勉『ノストラダムスの大予言』(祥伝社、1973年)には、1999年7の月に人類が滅亡するという解釈が示されていた。麻原の言葉が信憑性を高めていった背景として、世紀末が迫りつつあった時代状況があったことを見逃してはなるまい。
麻原にとって、富士山は「未来を予知した予言的な経典」に出てくる世界最終戦争が起こったとき、そこから逃れるための「岩間の陰」になりさえすればよかったのだ。富士講とは対照的に、麻原は富士山そのものには宗教的な意味を見いだしておらず、せいぜい信者が生き残るための方便としかとらえていなかった。
こうした麻原の思想は、窓がないために富士山を望むことができず、外部とのつながりを一切遮断したかのようなサティアンの建物によく示されていた。