わが身を守る「ヘルスリテラシー」も世界最低
「ヘルスリテラシー(Health Literacy)」という言葉があります。日本ではあまりなじみがありませんが、公衆衛生学的に確立された概念で、「ヘルスケア(病気や症状があるときどう医療を利用するか)」「疾病予防(予防接種や検診受診、その他疾病を予防するための行動など)」「ヘルスプロモーション(健康の維持・増進)」の三つの領域について、健康情報を「入手」・「理解」し、適切に「評価」して「活用」できる能力を指します。
個人のヘルスリテラシ-を測定できる質問表もつくられており、人々の実際の行動も、この質問表の点数によく相関していることがわかっています。国際比較もよく行われているのですが、残念ながら、日本人のヘルスリテラシーは調べられる限りで「世界最低」なのです。欧米先進国はもとより、経済的には発展途上国であるミャンマーやベトナム、インドネシア、カザフスタンなどよりもずっと下です。
標準治療を拒否し、代替療法に飛びつく人々
ヘルスリテラシーが低いということは、ちまたに流れる健康情報の是非を自分で判断することができないということです。実際、テレビで放送されたこと、活字で書かれたこと、会員制交流サイト(SNS)で情報として流れてきたことを、無条件で信じ込んでしまう方が少なくないのではないでしょうか。
世界価値観調査(World Values Survey)という調査でも、日本人の73%は「テレビや新聞の報道内容を信じる」「ほぼ信じる」と答えたそうです。これは飛び抜けて高い数字です(同じ質問に対し「信じる」と答えたアメリカ人はわずか22%でした)。その結果、テレビで「○○が体にいい」と言う話が放送されるたび、翌日にはスーパーの棚からその商品が消えることになるわけです。
ヘルスリテラシーの低さは、いわゆる代替療法に飛びつく人の多さにもつながっています。現在の日本の病院で行われている標準治療は、医学的なエビデンスを積み上げた中で、最も有効とされる治療法です。「これが一番、有効な可能性が高い」ことがわかっている治療法なのです。
ところが全くエビデンスのない誤った情報を信じ、当初から標準治療を拒否して代替療法に飛びつく人が少なくありません。国民の皆さんには、わが身を守るために、ぜひともご自分のヘルスリテラシーを高めていただきたいと思います。