自覚症状が出てからでは遅い
政府がこれほど努力してがん検診を勧めているのは、それだけのメリットがあるからです。
僕の患者さんのなかには、初診の時点でもう助かる見込みのなかった方がたくさんいます。そんな患者さんの多くは、がん検診を受けていません。
毎年がん検診を受けるような人は健康への関心が高く、高血圧にしても糖尿病にしても早めにチェックし、必要な医療を受けています。検診で見つかるがんは早期がんが多く、例えば子宮頸がんであれば9割近くが早期がんです。その段階で治療すれば、95%が治癒します。ところが検診を受けないまま、自覚症状が出てから病院に来てがんが見つかった人の場合、30~40%は進行がんです。そういうことがわかっていながら、日本ではいまだに自覚症状が出てから来る人が半分を占めるのです。
自分の命がかかっているのに
なぜ日本では、がん検診の受診率が低いのでしょうか。2016年に、がん検診を受けない理由を国が調べた国民調査があります。理由の1番は「受ける時間がないから」で、これが5割。2番は「費用がかかり経済的に負担だから」で、こちらは4割でした。「がんとわかるのが怖いから」も4割、「健康状態に自信があり、必要を感じない」という人も3割いました。
こういう結果を見ると、ついいら立ちを抑えられません。自分の命がかかっているのです。時間などなんとでもなるはずです。毎日食事もしているし、遊びにも行っているでしょう。お金についていえば、がん検診は多くの自治体で補助があり、無料かそれに近い費用になっています。高くてもせいぜい、内視鏡検査で3000円というところです。何万円もする化粧品や何百万円もする車を買うことを考えれば、それぐらい出せないことはないでしょう。
僕は小中学校でがん教育の授業をするとき、この調査結果をいつも見せて、「どう思う」と聞いています。先日、新宿の小学校で講演した際、前に座っていた6年生の女の子たちに聞いたら、3人が息を合わせたように、「バカみたい」と言いました。
そういう反応があるとうれしくなります。日本人は予防的な行動が苦手な国民なのかもしれません。