保守党勝利の背景は、深刻な「ブレグジット疲れ」
今回の英国の総選挙は、事実上、ジョンソン首相がEUと締結した協定案に基づく離脱の是非を国民に問うものであった。その意味で、深刻な「ブレグジット疲れ」にさいなまれていた英国民にとって、再びEUと離脱交渉を行い、そのうえで国民投票により有権者に信を問うという労働党の主張は、有権者にさらなる疲労を強いるものであった。
そのため、労働党の支持層の中にも少なくなかった離脱肯定派の票を、労働党は取り逃がすことなったと考えられる。加えて労働党のジェレミー・コービン党首は、鉄道や水道、発電といった基幹産業の国有化など、左派色が非常に強い公約を掲げた。一定の有権者は引き寄せることができたが、当然、産業界からは強い反発を受けることになった。
左派政党としての独自性を強調することに重きを置いた労働党の公約であるが、基幹産業の国有化などは時代遅れも甚だしい政策であった。そうした左派色が強い政策を採った結果、英国経済が1970年代に深刻な停滞に直面した歴史の事実もある。にもかかわらずそうした主張を繰り返すところに、埋没する左派政党の苦境がうかがえる。
実にシンプルだったジョンソン首相の戦略
それに比べると、主張を協定案に基づく離脱の実現に絞ったジョンソン首相の戦略は、実にシンプルであった。深刻な「疲れ」にさいなまれていた有権者の多くは、強烈な個性でEUとの交渉を成立させたジョンソン首相に一抹の期待を寄せたのだろう。その結果、従来の支持政党の垣根を越えて、与党である保守党に票を入れたとみられる。
言い換えると、このことからは、消去法的な選択で保守党に票を投じた有権者も数多く存在した可能性がうかがえる。1月末のEU離脱にめどをつけたという一点に限って言えば、ジョンソン首相が果たした功績は確かに大きい。ただ彼やその周囲が、離脱後の英国をどう導くか、確たる戦略を持っているわけではない。
英国のEU離脱が確定的となったことを受けて、多国籍企業の英国からの脱出はさらに加速する。当然、英国の潜在成長力は低下を余儀なくされる。英政府は投資誘致や起業支援に努めるとしているが、効果が出るとしても長い時間を要する。最長で2022年までとされる移行期間のうちに各国と自由貿易協定(FTA)を結べるかも定かではない。