分業されていた生産を統合する未来型のモノづくり

今後のモデルとして期待しているのは、香港のニット会社「コバルトファッション」だという。

香港の大手繊維商社、リー&フォンと、大手ニットメーカーが立ち上げた革新的なニット工場で、単なる下請けではなく、企画から生産まで一貫して手がける、垂直統合型の生産システムを構築している。

「この会社は伸びていて、ニット製品の新しいモノづくりを世界に発信すると意気込んでいる。『いろいろ教えてください』と、うちに頼みに来たから、協力することにしたんです」

コバルトファッションでは、島精機の最新のデザインシステム「APEX3」とホールガーメント編機を導入。3Dバーチャルサンプルの活用で、企画から生産までの工程をスピードアップし、消費者の求める商品をすばやく提供するという。

コバルトファッションの取り組みは、かねてより島精機が提唱する「トータル・ファッション・システム」のコンセプトを体現するものといえる。

トータル・ファッション・システムとは、「APEX3」を核に、商品企画、デザインから生産、そして販売促進までを包括的にサポートするもの。従来は別々の場所で細かく分業されていた生産システムが統合され、デスクトップ上での作業と、編機での生産ですべてが完結する未来型のモノづくりだ。

青写真は40年以上前に描いていた

島さんが開発したのは、ホールガーメント編機をはじめとする高性能のコンピューター制御横編機だけではない。

消費者の求めに応じて、さまざまな種類の製品をつくるためには、デザインなどの企画作業をスピーディーに進める必要がある。画面上でデザインをして、編機に入力するデータをつくり、指定した通りに正確に編み上げる。その一連のプロセスをコンピューター化し、効率化する構想を、1970年代から持っていたのだ。

その先には、コンピューターでデザインしたものが「バーチャルサンプル」として機能する未来も想定していた。実現すれば、実物のサンプルの作成が不要になり、さまざまな無駄が省ける。

この壮大なビジョンが、トータル・ファッション・システムとして、今、現実のものになったということ。今日においても時代の先端を行くこのシステムの青写真を、40年以上も前にしっかりと描いていたわけだ。そんな島さんのイノベーターとしてのすごみや独自の経営哲学は、アパレルに革命を起こした男(梶山寿子著、日経BP)に詳しい。

世界的なニットデザイナー、ジュリアナ・ベネトンさん(右から2人目)と。左端は、現・島精機社長である島三博夫妻。中央は故・和代夫人。(画像=『アパレルに革命を起こした男』)