糸さえあれば、多様な商品を必要な量だけ作れる

衰退しつつある国内の繊維業界を救うには、付加価値の高い商品を国内で生産するしかない——そんな危機感から、島さんはホールガーメント編機を開発し、1995年に製品化した。

この編機は、連携するデザインシステムで作成したデザイン通りに、縫い目のないニットを立体的に編み上げることができる。

ホールガーメント横編機で編んだ洋服のサンプル。複雑な柄やデザインであっても、糸さえセットすれば、一気に完成品として編み上がる。(画像=『アパレルに革命を起こした男』)

糸さえあれば、多様な商品を、必要なときに必要な量で生産できるのはもちろん、ボディサイズなどを入力することで、オーダーメイドにも対応が可能。世界にひとつしかない、自分にぴったりの服があっという間にできあがるのだ。

ニットといっても、生産できるものは幅広い。フリルのついた華やかなワンピースや、優美なフレアーの入ったロングドレス、衿やポケットのついたジャケットなど、あらゆるものが自在に編める。念のために補足すれば、フリルの飾りも、ジャケットの衿やポケットも、あとから縫いつける必要はない。完成品の形で編機から出てくるのである。

レースのような複雑な透かし編みや、繊細な柄もお手のもの。極細糸を使って細かいゲージで編めば、「えっ、これがニット?」と二度見してしまうような、薄く軽やかな洋服に仕上がるのだ。

時間とコストの節約が廃棄を減らす

縫い目がないから肌にやさしく、シルエットもすっきりと美しい。普通の服だと、薄手のものは縫い代の厚みが気になるが、無縫製なので、そういう心配は無用。さらに縫い代がない分、全体が軽くなる。

こうしたファッション性、機能性に加えて、サステナビリティの観点からもメリットが多いのは、前回(プラダも採用「和歌山の工場」が作るすごい機械)も説明したとおりだ。

また、縫製の手間がいらないので、人件費の高い消費国やその近隣で生産できて、時間やコストが節約できる。その結果、リードタイム(企画に着手してから商品が店頭に並ぶまでの時間)が大幅に短くなり、トレンドを読み違えることも減る。それが売れ残りや廃棄される服を減らし、利益率を上げることにつながるわけだ。