講師として出掛けた先には、同じ顔の女性たちが…

筆者も騙されそうになったことがある。

「世の中に必要だけど、誰もやらないのなら、私がやるまでだ!」

その頃、税務署で働いている同僚が疲弊しているのを見かねて、メンタルヘルスケアを事業にしようと退職し、意気込んでいた。

「メンタルヘルスケア研修って、素晴らしい事業を始められたんですね。集客は私の方でするので、ぜひ講師をお願いします」

起業しての一番の悩み事は人を集めること。筆者は、そこに、まんまと付け込まれた。講師として、出掛けた先には全員同じ化粧品を使い、同じ顔をした女性が集まっていた。帰り際には、ご想像通り、その化粧品を勧められた。

“引き寄せの法則”という言葉があるが、どうも、筆者は人を引き寄せるタイプらしい。今まで、いろんな人が近寄ってきた。寄ってくる人はいい人ばかりではない。腹に一物もつ怪しい人も同じ確率で近寄ってくる。

ネットワークビジネスは商品を介して仲間を集める仕組みだが、物を介さないものもある。

宗教だ。

「あなたと同じように志の高い方が、たくさん集まる場があるんですよ」

そう誘われて、足を運んだ会場は、マンションの一室だった。部屋に入ると既に数名の人が席についていた。そして、英語で書かれた1冊の本を渡された。

「では、この本に名前を書いてください」

周りを見渡してみると、筆者以外の人は既に自分の名前が書いてある手垢のついた本を手にしていた。

「あれ? これはヤバいかも……」

筆者は、本を閉じ、そそくさとその会場を後にした。

女性の弱みにつけこみ「勧誘」する悪徳業者たち

太宰治の『人間失格』の中にこんな文章がある。

ただ、自分は、女があんなに急に泣き出したりした場合、何か甘いものを手渡してやると、それを食べて機嫌を直すという事だけは、幼い時から、自分の経験に依って知っていました。

いつの時代も、女性は甘いものに弱いようだ。

昨今、投資セミナーと銘打って、自立した働く女性を囲い込もうとするビジネスもあるようだ。初回は無料だったり、高価なスイーツが振る舞われたりしているとしたら、それは、女性の弱みに付け込んでいるといえるのかもしれない。

筆者は、かつて、ネットワークビジネスをしている女性の税務調査を行ったことがある。彼女は、テレビCMでもおなじみ、誰もが知っている健康食品を扱っていた。

「ほら、見てください。これが以前の私です」

差し出されたモノクロ写真に写っている女性は、目の前にいる女性とは似ても似つかない所帯じみたおばさんだった。

「この商品を毎日摂取するようになって、私は、こころも身体も健康になり、こんなに若々しくなったんです!」

なるほど、こういうものを見せられると、専業主婦としてくすぶっていた人も、私もまだまだ捨てたもんじゃないと思い、その仲間に入ってしまうのだろう。