発想の転換ができていない公取委の現状

だが、日本の公正取引委員会は、まだまだこうした発想の転換ができていない。世界の巨大プラットフォーマーに対抗できる企業を育てることが国益につながる、という主張は政府内にもあるが、公正取引委員会はあくまで「競争が制限されるかどうか」が判断基準だという姿勢を崩していない。

ここ数年、地方銀行の再編統合でも、統合を進めたい金融庁と、合併で競争が阻害されるとする公正取引委員会の意見が対立している。一定地域内で地銀がひとつになることが寡占を生み競争をなくすという理由で、統合に難色を示しているのだ。

一方で、金融庁などからすれば、すでに3メガバンクなどとの間で競争力を失っている地銀を合併・再編していかなければ、地銀自身の存続が危ういとみている。政府の「未来投資会議」などは地銀や乗り合いバスなど、地方基盤企業の独禁法適用判断を柔軟にするよう求めているが、公取委はなかなか姿勢を変えようとしていない。

欧米では「特定の事業だけ売却」を命じる場合がある

欧米の独禁当局による合併審査の場合、競争を阻害すると認めた特定の事業分野で対策を命じることがしばしばある。合併そのものは認めるが、合併すると独占になり競争が阻害される特定の事業だけ、売却を命じるのだ。2008年に欧米の独禁当局が承認したカナダのトムソンと英国のロイターの経営統合の際に、企業データのデータベース事業の売却を求められたことなどが典型だ。

もちろん、世界で圧倒的な寡占状態になるような事業では、独禁当局が合併を認めないケースもある。世界で生き残りを模索するロンドン証券取引所がいったん合意したドイツ取引所との合併計画を、EUの行政機関である欧州委員会が2017年に禁止する決定を下した。確定利付債券の清算市場において、事実上の独占が生まれるというのが理由だった。

欧州委員会は2012年にもNYSEユーロネクストとドイツ取引所の合併を禁じる決定を下していた。もっとも、欧州委員会は持ち込まれるEU域内企業の合併についてはほとんど承認しており、合併を阻止したのはわずか。域内企業の成長拡大に理解を示す姿勢を取っている。

公正取引委員会の山田昭典事務総長は11月20日の記者会見で、経営統合をめぐる審査について、「日本企業同士の統合だからといって国内市場だけで判断するわけではない」と述べたという。あくまで「一般論」と断ったうえでの発言で、ヤフーとLINEの統合について見通しを示したものではないが、今回の統合を国内市場の競争が失われることを理由に禁じるのは無理があるように思われる。