一国内での独占禁止から、世界市場での独占禁止へ

公正取引委員会はこれまで、企業どうしの合併によって特定市場に寡占状態がおき、競争を阻害しないように、合併を認めるかどうか審査してきた。例えば、鉄鋼会社どうしが合併する場合、鉄の供給量の何%を新会社が占めることになるかを重点的にみて、合併を認めるかどうか判断してきた。

国内シェアの過半を占める企業が生まれると、競争がなくなり、企業が独占市場で価格をつり上げるため、消費者に不利益が生じるというのが独禁法の基本的な考え方だ。ところが、最近ではグローバル化によって、国際的な巨大企業との競争が激しくなり、生き残るためには日本国内で圧倒的に市場シェアを握ったとしても、競争はやまないという事例が増えた。逆に、日本で圧倒的な強さを持つ巨大企業を育てないと、国際競争に勝てないという状況に直面するようになった。

こうしたことから、一国の中での独占禁止から、世界市場でみた独占禁止へと、徐々に判断の原則が変化しつつある。

もともと欧州は独占禁止に厳しく、一国内で圧倒的なシェアを持つ企業の誕生に否定的だったが、EU(欧州連合)の誕生以降、EU域内でのシェアという見方に大きく変わり、最近では国際競争を前提にした国際シェアで合併の可否を判断する傾向が強まっている。つまり、EUでは寡占状態になったとしても、国際的に競争状態が保たれるのならば合併は認められるということだ。

「スマホ決済サービス市場を寡占する」とは言い切れない

今回のヤフーとLINEの統合で懸念されるのは、サービスが急速に広まっているスマホ決済サービス。LINEが展開する「LINE Pay」の登録者が約3700万人、ヤフー傘下の「ペイペイ」が約1900万人とされ、単純合算すると約5600万人に達する。NTTドコモの「d払い」は約1000万人とされ、それを大きく上回ることになる。国内のスマホ決済サービスという視点でみれば、ZHDが市場を寡占し、競争を阻害することになると見ることも可能だ。

ただ一方で、スマホ決済サービスという市場だけで「競争状態」を判断していいのか、という問題もある。スマホ決済は、ネットショッピングや情報提供サービス、SNSなどその他のネット上のサービスに付随して使われるもので、ネットサービス市場全体の中でのシェアを検討すべきではないか、という考え方も成り立つ。

日本で使われている広範なネットサービス全体からみれば、統合してもZHDが市場を寡占したとは言えない、という結論も可能だろう。いずれにせよ、独占禁止状態であるかどうかを判断する「市場」の範囲が、伝統的な製造業などとは違って極めて確定しにくいうえ、それが日々成長し、変化しているということだ。

さらに、日本一国ではなく、国際市場全体でみた場合、今回の統合が寡占とは到底言い切れない。前述の通りGAFAなどに日本企業のサービスは大きく立ち遅れている。こうした日本でのサービスの合従連衡を妨げてしまっては、そもそも日本企業の国際競争力は生まれてこない。