精神医学が他の医学と大きく違う点は、レントゲンで映し出すことができず、最新鋭のMRI(核磁気共鳴画像法)検査でも診断のできない、人の心のなかを扱っていること。心筋梗塞なら、心臓にある冠動脈に血栓ができて血液が詰まってしまう病気で、発生のメカニズムも病態もわかっている。その診断方法も、血栓を溶かす薬を入れる治療方法なども確立されている。
しかし、統合失調症などの精神病は、患者の脳の細胞を取り出して研究するわけにはいかず、何の原因によって引き起こされるのかも、実のところよくわかっていない。また、採血した血液の成分を調べたからといって診断できるものでもない。もっぱら患者に対する問診で診断が下されているのだ。
そうすると、精神医学を学ぶ一番の近道は患者を直接診ることになる。しかし、それは医師免許を持っていない医学部生には難しい話。
この問題の解決法に関して「映画が一番の教材になってくれます」というのは、3年前にシネマサイキアトリーのゼミを受講した5年生の冠地信和さんである。
「監督や俳優は演出に当たって医師から事前にレクチャーを受けているのでしょう。症状がとてもわかりやすい。統合失調症を勉強するのにテキストを開くと『妄想』『解体』といった言葉が出てきます。でも、どうしてもイメージしにくい。しかし映画を観ると、『あっ、こういうことだったのか』とすっと理解できます」
精神医学を学ぶ医学部生にとって映画がリアルなケーススタディーになっているようだ。