実験してみよう。方針を変え、昼休みにも販売活動を行ってみた。そうすると、売れなかったチケットが売れた。

ならばと、販売活動の重点を昼休みにシフトした。

蒼たちの高校では、一日ずっと同じ教室で授業を受けるわけではなく、一人ひとりが自分の時間割に沿って、選択した科目の教室に移動していく。

考えてみると、そんななかで同級生の仲良したちが集まり、ゆっくりと話せるのが、お昼休みのランチの時間だった。夏フェスのセット割引を利用して、友達と連れ立ってライブに行くには、このランチの時間でないと予定が決められない。それなら、販売活動はお昼休みに行えばよい。

これで販売が伸びた。

2019年の暑い夏、事件は起きた

そんなある日、事件が起きた。京都アニメーションへの放火である。7月18日のことだった。

「けいおん!」が好きで始めたバンドである。蒼、愛、真由夏、未来、珠緒、メンバーに衝撃が走った。

このころには夏フェスのチケットの販売は軌道に乗っており、利益が出せそうだった。メンバーで考え、利益は京都アニメーションに寄付することを決めた。当日のライブ会場には募金箱を置くことにした。

ライブ当日は大盛況で、後で聞くと皆楽しんでくれていた。この様子は翌日に読売新聞の地域版(大阪府)で、写真入りで報じられた。

来場者は60名。チケット販売+募金から各種経費を差し引いて、1万4628円の寄付を京都アニメーションに行うことができた。

それ以上に蒼たちが喜んだのは、来場者たちがライブを本当に楽しんでくれていたことだった。ライブ当日は忙しく、蒼たちは無我夢中だった。来場者たちの様子をつかむ余裕はなく、これでよかったのか、と茫然ぼうぜん自失の状態だった。蒼たちは後日手分けして、来場者たちに直接、感想を聞いて回った。こうしてつかんだ反応から、うれしさが込み上げてきた、そんな喜びだった。