目標、ターゲット、コンセプトを明確にする

蒼は、このメモをもとに、翌日からバンドのメンバーと話し合いを重ねた。

夏フェスは、出演者だけのものではない。聴きに来てくれる皆のためのイベントにしたい。

そうだとすると目標をどこに置くのか、

さらに知子のメモには、その次に決めないといけないこととしてターゲットとコンセプトが挙げられていた。

マーケティングの手法を取り入れてから話し合いもスムーズに進むようになった

夏フェスに当てはめれば、来てもらおうとしているメインの来場者は誰か。これがターゲットである。そして、この来場者にどのような体験を提供しようとしているか。これがコンセプトである。このターゲットとコンセプトを決めずにマーケティングの具体論に入ると、決まることも決まらなかったり、プロジェクトの統一性が失われてしまったりしやすいのだという。

「夏フェスのターゲットは高校生。そうするとコンセプトは……」

皆でようやくたどり着いたのが、以下の目標とコンセプトとターゲットである。

【夏フェスのマーケティング企画】
目標
1.来場者に自発的に「楽しかった」と言ってもらうこと
2.出演者が達成感を感じること
コンセプト
出演者側で完結した夏フェスをお客さんに観てもらうのではなく、本番の時来場者と一緒に音楽を通して夏を盛り上げて青春を感じる
ターゲット:
高校生

マーケティング・ミックスの段階に進む

この話し合いは、意外なほどスムーズに進んだ。メンバーたちは、運営の細かな具体論で行き詰まり、当初の高揚感を失っていた。夏フェスの目標を検討することは、久しぶりの楽しげな時間だったのだ。皆がひとつのイメージを共有できたことで、行き詰まっていたプロジェクトが再び動き出した。

「マーケティング・ミックス」という概念を知ったこともよかった。このフレームワークを知ったことで、蒼たちは夏フェスをやり遂げるのに必要な活動を、バランスよく計画できるようになった。

知子のメモには、目標とターゲットとコンセプトの次は、マーケティング・ミックスを決めると書かれていた。マーケティングでは、目標、ターゲット、コンセプトを定めると、その実現にはどのような活動の組み合わせが必要となるかを検討する。この活動の組み合わせのことを、マーケティング・ミックスといい、通常は製品、価格、流通、プロモーションの4つの要素の組み合わせとして考える。

マーケティング・ミックスでいうところの製品とは、企業が対価を受け取って顧客に提供するモノやサービスを指す。夏フェスの場合は、それは当日のライブイベントとなる。この準備については、会場や出演者はすでに確保できていた。

しかし当日のプログラムなど、優先して決めないといけない問題はまだ残っていた。コンセプトに沿ったプログラムを、他の出演バンドなどとも相談しながらつくらないといけない。

販売グッズの問題もあったが、これは後回しにしてもよさそうだ。

価格についてはチケットの基本料金をいくらにするかだけではなく、友達同士での連れ立っての来場をうながす、割安のセット料金なども検討したいと思った。コンセプトの「来場者と一緒に夏を盛り上げる」を実現するには、仲のいい友達と一緒に来てもらうのがよい。

そして、このチケットをどのように流通させるかも決めなければならない。販売方法やお金の管理方法も考えないといけないのだ。

さらにプロモーションも忘れてはならない。会場はいっぱいにしたい。そのためにもライブの2カ月くらい前にはプロモーションを開始したい。だがそもそも、プログラムや料金やチケットの販売方法が決まっていないと、ポスターひとつ作れないではないか。