サイゼリヤのパスタが目指すのは「控えめなおいしさ」

そして実際のところ、サイゼリヤとしてもパスタメニューはあくまで日常食としての控えめなおいしさを提供しているという明確なスタンスがあると思います。普段ほとんどの方は見過ごしていると思いますが、サイゼリヤのグランドメニューのパスタのページ、その左上にはこんなことがはっきりと書かれています。

具やソースが主張しすぎないシンプルな味付け。

ちょうどいいボリューム感。他の料理と組み合わせたり、みんなで取り分けたり。気分でお選びいただけます。

1行目の文章がまさにキモですね。ひと口食べてハッとなり「おいしい!」となるにはやはりそこには具やソースなどの味付けでそれなりのインパクトがなければいけないわけですが、この文章ではサイゼリヤとしてはそもそもそこを目指しているわけではないということがはっきりと宣言されています。

度々引き合いに出して恐縮ですが、五右衛門のスパゲッティは基本、何を食べてもはっきりとインパクトのあるかなり濃いめの味付けが施されています。一見あっさりしていそうな和風パスタでも、実はダシのうまみがこれでもかというくらいに強調されています。

また好事家が通うようなイタリアンレストランだと、時には高級食材も駆使しつつ少量で驚きと感動のある味わいが演出されているものです。サイゼリヤのパスタが目指しているのはそのどちらでもないということですね。

低コストのままインパクトを狙うとジャンクになる

うがった見方をすると、サイゼリヤにはそもそも徹底的に安価な料理を提供するという使命があります。しかし、そこでひと口目からインパクトのある味わいを狙えば必然的にどんどんコストは上がってしまう。

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だからといって低コストのまま強引にそれを目指すならそれはいかにも加工食品然としたジャンクな味わいにならざるを得ません。であれば、そこは開き直ってあくまで家庭的でシンプルな味わいを目指そう、ということだと思います。

またこのテキスト、2行目以降にもサイゼリヤのスタンスが明確に記されています。日本のスパゲッティ専門店では長らく、一人が1皿ずつのパスタをオーダーし、それにせいぜいスープかミニサラダがつく、というようなスタイルが一般的でした。

五右衛門はまさに典型的なそういうお店です。パスタをあくまでコースの流れの一品として楽しんだり、一人1皿ではなく大勢でシェアして楽しんだりというスタイルは、本格的なイタリアンレストランの浸透で最近では珍しいものではないですが、ファミレスというカテゴリーのなかでそれは異端。サイゼリヤはそこに果敢に挑戦しているのです。

「パスタだけでおなかをふくらませるのではなく、いろいろな料理を一緒に頼んで、時にはみんなでシェアしてください。パスタは控えめな味付けの引き立て役に徹します」

それがサイゼリヤのパスタに込められたメッセージなのです。

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