1人あたり年間一週間相当分の労働時間を削減

では、デジタル化によってムダが省かれた結果、何が生まれるか。それは「時間」です。エストニアの働く人たちは、電子署名の活用によって、1人あたり年間一週間ほどの時間が削減できたといわれています。

ここで重要なのは、「その一週間を何に使うか」です。エストニアの人たちは電子化以前から時間の使い方が上手で、自分の時間を大事にしてきました。残業もほとんどせず、夕方になると会議の途中でも「子供のお迎えがあるから帰る」と言って会社を出るのが当たり前です。

週末は自然の中で過ごす人が多く、私も森へ行ってブルーベリーを摘んだり、湖でボートを漕いだりして過ごします。そして自宅へ帰ったら、妻や娘と一緒にブルーベリーマフィンを焼く。まるで絵に描いたみたいな話だと思うかもしれませんが、エストニアではこれが普通のライフスタイルなのです。

一方で、日本の人たちはどうでしょうか。私も日本で講演すると、「明日から一週間の余暇ができたら何をしますか?」と参加者に問いかけますが、答えに詰まる人がほとんどです。それではせっかくデジタル化を推進して時間が生まれても、ただスケジュールにぽっかりと穴が開くだけになってしまいます。

エストニアの人たちに同じ質問をしたら、すぐに「あれがしたい」「これをする」と答えが返って来るでしょう。エストニア人は時間がお金より尊いものであると知っていて、いかに時間を有意義に使うかを考え抜いている。だから電子化によって生まれた時間をムダにしなかったのです。

とはいえ今の日本では、日常生活の中でムダな作業に追われ、自分と向き合う余裕さえないのが現実です。時間の大半をストレスフルなことに奪われていたら、思考停止に陥っても仕方ありません。だからこそ、テクノロジーを活用してムダを省き、自分と向き合う時間を作って、「自分にとって何が大切なのか」「本当にやりたいことは何か」を考えることが必要です。

デジタル化で可処分時間を増やすことはできる。でも、その時間を有効に使えるかどうかは自分次第である。この時間に対する向き合い方こそ、日本がエストニアに学ぶべき点なのかもしれません。

(構成=塚田有香 撮影=西田香織)
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