エストニアの「当たり前」を日本に逆輸入する

blockhiveはエストニア発の電子契約プラットフォーム「e‐sign」の日本展開を発表。日本語対応で、世界中の誰もが一生無料で使用できる。

これでわかるように、エストニアでは電子契約をはじめとするデジタルサービスが社会インフラとして定着しています。私がはじめてエストニアを訪れたときも、すぐに「この国には目指すべきデジタル社会の未来がある」と感じました。それで2017年にエストニアへ移住し、現地で法人を立ち上げました。

私はもともと日本でベンチャーを創業し、企業から受託したブロックチェーンの開発案件をたくさん手がけていました。エストニアは、ブロックチェーンの技術を国家基盤である行政システムに導入している唯一の国です。日本を含め、世界中の国々がいずれエストニアのようになる。

だったら外側から眺めるのではなく、実際にこの国で暮らしてデジタル立国を体感し、日本国内の課題を解決できる仕組みや制度があれば逆輸入したい。それがエストニアで起業した理由です。

日本国内で提供を始める予定の「e‐sign」はその一つ。これはエストニアと同様、デジタルIDで電子契約できるプラットフォームです。スマホのアプリからマイナンバーカードや運転免許証などの公的本人書類を登録すればデジタルIDが作成でき、印鑑の代わりに電子署名が可能となります。

日本でもすでに電子契約サービスは提供されていますが、一部のお試しプランをのぞき毎月1万円程度のランニングコストがかかります。一方、e‐signは完全無料です。無料での提供に踏み切ったのは、多くの人に利用してもらうことで、エストニアのようにデジタルサービスが社会に欠かせないインフラになってほしいと考えたから。

とくに日本はハンコ文化が根強いだけに、「紙に手書きで署名し、印鑑を押すのが当たり前」という常識を覆すには、メールのように無料で手軽に使える必要があると判断しました。

令和元年は「電子政府化元年」

電子化については、日本も決して世界に後れをとっているわけではありません。政府は2023年までに電子政府化の実現を掲げ、今年5月には行政の電子化を推進する「デジタル手続き法」が交付されました。これにより、行政手続きのオンライン実施が原則化されます。令和元年は、「日本の電子政府化元年」でもあるのです。

デジタル化によって、日本ならではのサービスが生まれる可能性も高まります。遠隔診療はその一例です。日本では地方の医師不足が深刻化し、遠く離れた医師と患者をオンラインでつなぐ仕組みの整備が急務となっています。

これもデジタルIDが普及すれば、遠隔診療のサービスにログインするだけで保険証や医師免許のデータと連動し、診察後に医師が書く電子カルテや電子処方箋と患者の個人情報がつながります。患者が医薬品を扱うECサイトにログインすると、処方箋に適合する医薬品が自動的に表示されるといったサービスの連携も可能でしょう。

エストニアは日本に比べて国土が狭いので遠隔診療のニーズは高くありませんが、日本ではこれをデジタル化で解決できます。課題先進国である日本こそ、解決できることがエストニア以上にあるはずです。