1年で約20億円を調達した奇抜なアイデア

リケットは、グーグルを退職後、テクノロジーの専門知識を広げようとコンピューター画面の前を離れてガンビアという小さな西アフリカの国の貧困地域向けに太陽エネルギー機器の提供を試みる企業で働いた。

スコット・ハートリー『FUZZY-TECHIE(ファジー・テッキー) イノベーションを生み出す最強タッグ』(東洋館出版社)

同社のエンジニアリング部門のディレクターとして香港を中心に活動していた時に、人類学の研究者になり切って、アフリカの村落で何カ月も過ごした。そこに住む人々は資金を借り入れる手段も方法も一切持っていない、将来の顧客候補だと思ったからだ。資金を借入できないと、ソーラーパネルの初期費用は高すぎてとても手が出ない。

一方で、同じアフリカの人々が地元の売店でプリペイド式の携帯電話プランを購入していることも分かった。そこでリケットは「ソーラーパネルも同じように買える仕組みにすればよい」と考え、その企業の顧客が一回当たりの支払いを少額にして、時間をかけてソーラーパネルの新製品を購入できるためのソフトウェアを開発した。

リケットはアメリカに帰国後、そのモデルを使って、借金をできないおよそ4500万人のアメリカ人も、今日で最も偉大なツール「スマートフォン」を買える仕組みを作ろうと決意した。ヘイネンとチームを組んで彼に営業責任者になってもらい、2015年にペイジョイのサービスを開始し、人々はほかの手段よりもずっと安い金利の長期ローンでスマートフォンを買えるような仕組みを作り上げた。営業開始後わずか1年で、投資家らから1800万ドル(約20億円)を超える資金を調達した。同社の最終的な目的は、アメリカ市場だけでなく、地球上のあらゆる人々がスマートフォンを購入できるようにすることだ。

心理学を学んだエンジニアが初めて知ったこと

アイデアは日常にもたくさんある。自分たちの理系的な才能と心理療法の知識を組み合わせ、メンタルヘルスの世界に大きな影響を及ぼしているイノベーターを紹介しよう。

「トークスペース」というテクノロジー・ベースの治療プラットフォームを設立したロニー・フランクだ。開始から3年が経たないうちに、1000人のセラピストが30万人以上の利用者に個別サービスを提供するまでに成長した。

社会に出たての頃、ロニーはソフトウェアのエンジニアだった。広告会社の専門技術者だった夫とともに夫婦カウンセリングに通い、問題が解決したときに大変な感激を受けた。自分自身がセラピストになりたいと決心し、ニューヨーク大学の心理分析大学院の修士課程に入学して心理学を勉強した。

そこで、精神的な苦痛に悩まされている人々は、治療よりも黙って苦痛に耐えることを選ぶ人が多いことを知った。