一流のキレ芸「こんな事件起こして恥ずかしくないんですか!」
検察官は証拠が整っていていればほぼ確実に有罪判決を得ることができるので、弁護人のように熱弁をふるったりする必要はない。だが、執行猶予も絶対に与えたくないと意気込むのか、再犯防止意識が高いゆえなのか、性犯罪や覚せい剤使用事件などでは、被告人質問で暴走気味の追い込み方をするときがある。
典型的なのは、性犯罪を担当する女性検察官が、全女性を代表するかのような口ぶりで、被告人の犯罪行為を責め立てる場合。見学(傍聴席)の女子高生たちまで利用するのを聴いたときは、目的のためには手段を選ばぬオフェンス力に舌を巻いたものだ。
「あなたね、さっきから『もうしません』と繰り返しているけど、前回捕まったときも同じこと言ってるでしょう。ふー(タメ息)。今日は傍聴席に学生の方がたくさんきています。みんな、あなたをにらんでいますよ。こんな事件起こして恥ずかしくないんですか! もういいです、終わります」
反論できない相手をいたぶり、恥をかかせるわけだが、同じ検察官が別の事件では上品な口調で被告人に接しているのを見るとプロだなと言いたくなる。検察官の狙いは、被告人をカッとさせて本音を引き出すこと、また、矢継ぎ早の質問で被告人の言い分が矛盾していることを明らかにすることだ。傍聴を続けていると、しょっちゅう見かける検察官がいるけれど、いったい本人がどんな人なのか、僕には想像もつかない。
▼忘れられない法廷のプロの技【法曹三者編】
裁判長・検察・弁護人が「おにぎり35個万引き」の犯人を励ます
プロ意識の高い法曹三者はそれぞれ立場も役割も異なる。よって彼らが足並みを揃えて被告人を励ますことはまずない。弁護人と裁判長はともかく、厳しい刑を求めるのが常の検察がそんなことするなんてありえない。
ところが、それに近いことが起きたのである。
拙書『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか』(プレジデント社)に収録した、本のタイトルになった事件。被告人は43歳の無職男性。3つの大学を卒業した元公務員で手話通訳のプロだったが、ワケあって路上生活を強いられ、逮捕時の所持金はたった147円だった。